雨の唄
短編 GOD EATER / GOD EATER BURST
いつもの見慣れた食堂も、深夜には照明が落とされ、幾分雰囲気が出るものだ。
カウンターの席に並んで座る2つの影は、時折グラスを傾けながら、とりとめのない話を楽しんでいた。
フェンリル極東支部第1部隊に所属する、ナギサとソーマだ。
あれから…例の事件から、すでに3年が経とうとしていた。
「そろそろやめておけ。弱いだろ。」
傍らに置かれたボトルに手を伸ばしたナギサを、ソーマが諌める。
ナギサは不服そうにソーマを見詰めてから、諦めたように手元のグラスに口をつけた。
氷で薄まった少量のアルコールをちびちびと喉の奥に流し込み、ナギサがグラスを置く。
少し氷の溶けたグラスが、小さな明かりを取り込んで淡く煌めいていた。
じっと視線を送るソーマに、ナギサは首を傾げる。
「酔ってるの?」
「酔うわけねぇだろ。酒じゃない。」
「ソーマは飲まないんだ?」
「俺まで潰れたら誰がお前を部屋に連れていくんだ。」
ソーマはどこぞのヘビースモーカーのようにあまり酒に強い方ではなかった。
そしてナギサの方はと言うと、強いどころかものすごく弱かった。
飲めばほぼ確実に酔い潰れ、大体その場で眠ってしまい、しかも朝まで起きない。
そうなるたびに誰かに部屋まで運んでもらっているのだが、ソーマとしては彼女のその警戒心の薄さが本当に心配だった。
「そっか。…ありがと。」
赤い顔でやんわりと笑む彼女に、ソーマはいろんな意味のこもったため息をつく。
不意に沈黙が訪れた。
まるで、早く切り出せと急かされているようだった。
ここに誘ったのはナギサの方だった。
だから、ナギサが自ら伝えるのだと思っていたのだが、彼女には話をする気配がない。
何も告げず、告げられず、いなくなるつもりなのか。
ソーマは再び一つ、今度は重いため息をついた。
「……お前、明日からしばらくここを離れるんだってな。」
カラリと、グラスの氷が音を立てる。
沈黙の中で、その音はやたら大きく響いた。
しばらく静寂を待って後、グラスの底を見詰めながら、彼女は「うん」とそれだけ返した。
「…どうして黙ってた。」
ナギサが遠征のためしばらくアナグラを留守にする、とソーマが聞かされたのはつい先刻のことだった。
恋人としばらく会えなくなってしまうはずのソーマが、普段と変わらない様子であることから悟ったコウタが、世話を焼いたのだ。
彼女のその任務が決まったのはもう1週間以上も前で、コウタもリンドウもとっくに知っていた。
ナギサから伝えたのか、他から伝わったのか、それは定かではないが。
どちらにせよ、ソーマには知らされていなかった。
彼女に会えなくなる悲しみと、そういった重要なことを伝えられなかった苛立ちとが、彼の心を陰らせる。
本来なら自分が、真っ先に彼女自身から伝えられるべきことなのではないのか。
グラスを見詰めたままの彼女が、睫毛を伏せる。
そしてぽつりと、呟くように返事を返した。
「だって、寂しいから。」
それに、あなたにそういう顔、させたくなかった。
そう続けて、彼女はソーマに顔を向けた。
切なげに揺れるその瞳に映っていたのは、あまりにも苦しげな男の顔。
腕を伸ばした。
その存在をこの心に刻むように、彼女を強く抱きしめる。
これが永遠の別れになるわけじゃない。
そう、信じているのに。
「愛してる。」
耳元で低く囁かれた言葉に、ナギサがぴくりと反応した。
彼の言葉に応えるように、その背中に腕を回す。
「…私も、愛してる。」
そう小さく口にして、彼女は一層顔を赤くし、彼の厚い胸板に顔をうずめる。
「酔いが回ったか?」
からかうような声色でそんなことを訊かれ、彼女は不服を訴えるように、ぎゅっとソーマのコートを握り締めた。
「ソーマこそ、酔ってるの?」
「そうかもな。」
ふっと笑ったソーマに優しく肩を押され、ナギサが身体を離す。
2人の視線が交わり、そして。
すぐに互いの唇が重なる。
角度を変えて、何度も。お互いを求め合った。
「ん、ぅ…っ。」
吐息まで呑み込むような深い口づけが続き、徐々にナギサが苦しげに眉を寄せていく。
やがてついばむようなキスを一つ落として、ソーマが唇を離した。
荒く呼吸を繰り返す彼女を見詰め、彼はにやりと艶やかに微笑う。
「いいかげん、息継ぎの仕方を覚えろよ。」
むっと、文句を言いたげにナギサはソーマを睨み付けた。
上気した顔でそんなことをしても、まるで迫力がない。
「誘ってんのか?」
「…ッ!」
ナギサが抗議の声を上げるより早く、ソーマが再び彼女の口を塞いだ。
意地悪な言葉とは裏腹に、それはとても優しく甘い口付けだった。
ついに何も言えなくなった彼女の柔い視線を受け止め、彼は心から慈しむような笑みを返す。
「ここまでにしておくか。」
カウンターの席に並んで座る2つの影は、時折グラスを傾けながら、とりとめのない話を楽しんでいた。
フェンリル極東支部第1部隊に所属する、ナギサとソーマだ。
あれから…例の事件から、すでに3年が経とうとしていた。
「そろそろやめておけ。弱いだろ。」
傍らに置かれたボトルに手を伸ばしたナギサを、ソーマが諌める。
ナギサは不服そうにソーマを見詰めてから、諦めたように手元のグラスに口をつけた。
氷で薄まった少量のアルコールをちびちびと喉の奥に流し込み、ナギサがグラスを置く。
少し氷の溶けたグラスが、小さな明かりを取り込んで淡く煌めいていた。
じっと視線を送るソーマに、ナギサは首を傾げる。
「酔ってるの?」
「酔うわけねぇだろ。酒じゃない。」
「ソーマは飲まないんだ?」
「俺まで潰れたら誰がお前を部屋に連れていくんだ。」
ソーマはどこぞのヘビースモーカーのようにあまり酒に強い方ではなかった。
そしてナギサの方はと言うと、強いどころかものすごく弱かった。
飲めばほぼ確実に酔い潰れ、大体その場で眠ってしまい、しかも朝まで起きない。
そうなるたびに誰かに部屋まで運んでもらっているのだが、ソーマとしては彼女のその警戒心の薄さが本当に心配だった。
「そっか。…ありがと。」
赤い顔でやんわりと笑む彼女に、ソーマはいろんな意味のこもったため息をつく。
不意に沈黙が訪れた。
まるで、早く切り出せと急かされているようだった。
ここに誘ったのはナギサの方だった。
だから、ナギサが自ら伝えるのだと思っていたのだが、彼女には話をする気配がない。
何も告げず、告げられず、いなくなるつもりなのか。
ソーマは再び一つ、今度は重いため息をついた。
「……お前、明日からしばらくここを離れるんだってな。」
カラリと、グラスの氷が音を立てる。
沈黙の中で、その音はやたら大きく響いた。
しばらく静寂を待って後、グラスの底を見詰めながら、彼女は「うん」とそれだけ返した。
「…どうして黙ってた。」
ナギサが遠征のためしばらくアナグラを留守にする、とソーマが聞かされたのはつい先刻のことだった。
恋人としばらく会えなくなってしまうはずのソーマが、普段と変わらない様子であることから悟ったコウタが、世話を焼いたのだ。
彼女のその任務が決まったのはもう1週間以上も前で、コウタもリンドウもとっくに知っていた。
ナギサから伝えたのか、他から伝わったのか、それは定かではないが。
どちらにせよ、ソーマには知らされていなかった。
彼女に会えなくなる悲しみと、そういった重要なことを伝えられなかった苛立ちとが、彼の心を陰らせる。
本来なら自分が、真っ先に彼女自身から伝えられるべきことなのではないのか。
グラスを見詰めたままの彼女が、睫毛を伏せる。
そしてぽつりと、呟くように返事を返した。
「だって、寂しいから。」
それに、あなたにそういう顔、させたくなかった。
そう続けて、彼女はソーマに顔を向けた。
切なげに揺れるその瞳に映っていたのは、あまりにも苦しげな男の顔。
腕を伸ばした。
その存在をこの心に刻むように、彼女を強く抱きしめる。
これが永遠の別れになるわけじゃない。
そう、信じているのに。
「愛してる。」
耳元で低く囁かれた言葉に、ナギサがぴくりと反応した。
彼の言葉に応えるように、その背中に腕を回す。
「…私も、愛してる。」
そう小さく口にして、彼女は一層顔を赤くし、彼の厚い胸板に顔をうずめる。
「酔いが回ったか?」
からかうような声色でそんなことを訊かれ、彼女は不服を訴えるように、ぎゅっとソーマのコートを握り締めた。
「ソーマこそ、酔ってるの?」
「そうかもな。」
ふっと笑ったソーマに優しく肩を押され、ナギサが身体を離す。
2人の視線が交わり、そして。
すぐに互いの唇が重なる。
角度を変えて、何度も。お互いを求め合った。
「ん、ぅ…っ。」
吐息まで呑み込むような深い口づけが続き、徐々にナギサが苦しげに眉を寄せていく。
やがてついばむようなキスを一つ落として、ソーマが唇を離した。
荒く呼吸を繰り返す彼女を見詰め、彼はにやりと艶やかに微笑う。
「いいかげん、息継ぎの仕方を覚えろよ。」
むっと、文句を言いたげにナギサはソーマを睨み付けた。
上気した顔でそんなことをしても、まるで迫力がない。
「誘ってんのか?」
「…ッ!」
ナギサが抗議の声を上げるより早く、ソーマが再び彼女の口を塞いだ。
意地悪な言葉とは裏腹に、それはとても優しく甘い口付けだった。
ついに何も言えなくなった彼女の柔い視線を受け止め、彼は心から慈しむような笑みを返す。
「ここまでにしておくか。」
つづきは戻ってから、な
〜Fin.〜
あとがき
公共の場で何やってんだこいつら感。次の日朝早くに発つ彼女を気遣って我慢するソーマさんでした。
時期はGE2に入るちょっと前、あの白い制服を支給される前くらい。
20過ぎて大人っぽくなった2人を意識してみました。
大変遅くなりましたが、ゴッドイーター2発売おめでとうございます!!
全然やる時間がなくて、やっとロミオの事件が終わったところです^^;
やっぱりゴッドイーターは楽しいなぁ。
2014/02/16