雨の唄

短編 GOD EATER / GOD EATER BURST

おかえり

《鎮魂の廃寺》にて。

ミッション『ピルグリム零』。

クリア条件:ハガンコンゴウ2体、コンゴウ1体、コンゴウ堕天1体の掃討。



「…ったく、ちょろちょろとめんどくせぇな。」

ミナトがぼやく。

殴りかかってくるコンゴウの攻撃をかわし、トドメを刺した。


「よし。こっちは終わったぞ。おいソーマ、そっちは……。」

倒したハガンコンゴウとコンゴウの捕喰をさらっと終えて、一緒に任務に来ていたソーマを振り返る。

そっちはどうだ?と、ポジティブな意味でかけようとした言葉を中断した。


「あ? なんだッ?!」

ハガンコンゴウとコンゴウ堕天の猛攻をかわし、思うように剣を振れずにイライラしているソーマが返事をする。


「お前…。せめて一匹くらいやれよ…。」

「手が空いてんなら手伝え!!」

半ば呆れて言うミナトを、ソーマが怒鳴った。


「…しょーがねぇなぁ。」

やれやれと肩をすくめてから、ソーマに加勢する。


2対2となると、フェンリル極東支部の主戦力である第1部隊所属の2人にとっては、もはや何の脅威にもならない。

あっという間に片付けて、任務完了となった。



雪を踏みしめ、ヘリのところまで歩いて行く。

相変わらずここは寒い。

もう何度も訪れてはいるが、この寒さに慣れることなどない。

ソーマやリンドウさんはともかく、コウタやアリサやサクヤさんはよくあの格好で平気でいられるものだ。

ミナトは少しでも温かくなるようにと、神機を持っていない左手をポケットに突っ込んだ。


「お前さぁ、バスターやめたら?」

白く浮かんでは消えていく自分の息を眺めながら、ミナトは言う。


攻撃力は高いが隙の大きいバスターブレードで、コンゴウ種4頭の同時討伐は骨が折れるのではないか。

そう思ったのだ。


実際ソーマは苦戦していた。

場馴れしていることもあり、自分自身がダメージを受けることはあまりないが、相手のアラガミにもなかなかダメージを与えられない。

一人だったら時間がかかって仕方ないだろう。


「たまにはロングとかショートも、悪くないと思うぜ?」

「今更変えられるかよ。俺はこれでいい。」


ソーマが自身の肩に担ぎ上げているバスターブレード・イーブルワン。

昔は真っ黒だったが、今は真っ白だ。


何の気なしに、ほんの僅かな刻ではあったが、昔を思い出した。

自らを閉ざし、他者を拒絶していた、過去のソーマを。


バスターブレードはどれも重いが、イーブルワンは中でもさらに重い。

そんなことを、誰かから聞かされたことがある。

リンドウさんだったか、サカキ博士だったか、あるいは全く別の人間だったかもしれないが、とにかく誰かから教えてもらった。

ソーマはあえて“普通”より重い神機を使っているのだ…とも。

まるで、自身に宿る人外な力を疎むように。


今もなお使い続けているその重い神機を、ソーマは何を思って扱っているのだろう。


「ま、お前がいいって言うならいいけどさ。…たかがハガンコンゴウとコンゴウ堕天に苦戦してるなんて世話ねぇなと思って。」

仮にも俺の先輩なのに…と、嫌味を一つ付け加えてやった。


「うるせぇな、ほっとけ。」

苦戦していた事実を認めたくないらしい古株神機使いは、苛立たしげにそう吐き捨てた。



「…あんまり自分を嫌ってやるなよ。」

「…何だって?」

いきなり突拍子もないことを言われ、ソーマが怪訝な顔をしてミナトの方を振り返る。


「自分を嫌うなって言ったんだよ。」

「…どういう意味だ。」

「意味はわかってんだろ。」

「………。」


ヘリが見えてきた。

これでこのクソ寒い場所からやっとおさらばできる。

神機を持つ右手はすでにかじかんで感覚がない。


「…別に、嫌ってない。」

「え、なんだ?」

「さっきの話だ。…別に嫌ってない。」


ついさっきの「自分を嫌うな」という、ミナトの言った言葉に対する返事らしい。

てっきり沈黙で話を終わらせたのかと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。

ソーマは、ずっと返す言葉を探していたのだった。


ミナトが立ち止まり、ソーマも足を止める。

ソーマは真面目な顔で口を開いた。


「…俺は人と違う化け物で、そばにいるだけで害を及ぼす死神なんだと、ずっとそう思って生きてきた。」


ソーマを除く部隊の全滅、エリックの死、リンドウの失踪。

それら全てをソーマのせいとして、周囲はソーマを忌み蔑んでいた。

勝手極まりない、あまりにも理不尽な責任の押し付けだが、それさえも甘んじて受け入れてしまうほどに、ソーマは傷付いていたのだろう。


「だが、今は違う。」


ソーマがふっと笑う。


「助けてほしいと頼めば手を差し伸べてくれる奴がいる。ただいまと言えばおかえりと返してくれる場所がある。…俺にはもう、“仲間”がいる。お前も含めて、な。」

そう言うソーマの表情はとても穏やかなものだった。

これがきっと、ソーマの“普通”なのだろう。


「…だから、今の自分は、別に嫌いじゃない。」

「…そっか。」

ミナトは胸をなでおろす。

自然と笑みを浮かべていた。


──「俺たち、同じ部隊の仲間じゃん。もっと頼れよ。」

──「一緒に頑張りましょう!お手伝いします!」

──「おかえりなさい。怪我はない?」

──「心配すんなって。いつでもお前の背中は俺が預かってやるよ。」


仲間たちの言葉と笑顔が脳裏を過った。


…そうか。

そうだった。

その通りだ。


(何を心配してたんだろう、俺は。)


再び歩き出したソーマと並ぶように、ミナトも歩き出す。


「さあ、さっさと帰ろうぜ。」

「…ああ。」



きっとアナグラに戻れば、みんなが待っていてくれてるんだろう。

そして帰ってきたミナトとソーマに言ってくれるのだろう。


「おかえり」と。
〜Fin.〜

あとがき

ミッション『ピルグリム』シリーズ。
ロングで群がるコンゴウどもを切り抜けていくのが、かなり爽快。
ショートでもいいけど、とりあえずバスターではやらない。
酷い目に遭いました…。
2011/02/10(微修正:2011/11/22)
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