雨の唄

短編 GOD EATER / GOD EATER BURST

Fortune

エントランスにやってきて、何の気なしにテレビに視線を向けた。

映っていたのはニュースの占いコーナー。

ちょうど自分の星座だったこともあり、耳を傾けた。


『今日のあなたは絶好調!何をやっても上手くいきそう。
 特に恋愛運が好調です。あなたの恋に新展開が訪れるでしょう。』


「ふーん。」


どうやら今日はツイてるらしい。

別に占いを信じてるわけでも、真に受けるわけでもないが、それでも自分が良い運勢なのは単純に嬉しい。

良くない結果はたかが占いと聞き流し、良い結果はラッキー!と気持ちを弾ませる。

占いの使い方ってのは、そういうもんだろうと思ってる。


「恋に新展開、か。」


もしかしたら今日こそヒバリちゃんがお茶に付き合ってくれるかもしれない。

単純思考と言われれば否定できないだろうが、良いことを良いこととして受け取れるのは自分の長所だ。

さっそく実行とカウンターに体を向けた。

ところが、いつもカウンターにいるはずの彼女の姿が見当たらない。

呆けていると、ヒバリちゃんではない別のオペレーターと話をしていたナギサがこちらに顔を向ける。


「こんにちは、タツミさん。」

「よう、ナギサ。…あのさ、ヒバリちゃんは?」

「今日は非番だそうですよ。朝からどこかへ出かけたみたいです。」

「なんだよ…。ツイてないな…。」


やっぱり占いは占いか。

肩を落とす俺を見て、ナギサがくすくすと笑う。


「残念でしたね、タツミさん。せっかくだから私に何かおごってくださいよ。」

「どんなせっかくだよ。」


俺が占いを見ていたことと、その占いの結果を、彼女はどうやら知っているらしい。

まあこの至近距離だ。

聞かれていても別段不思議はない。


「私、今日は金運が絶好調なんです。誰かにおごってもらえるでしょうって。」

「ウソつけよ。…まあいいや。おごってやるよ、せっかくだから。」


彼女の筋違いなせっかくを強調して承諾してやれば、じゃあ気が変わらないうちにと彼女が歩き出す。

妙なところで子供みたいなナギサに苦笑しながら、後に続いた。



朝食にしては遅いが、昼食にしては早い。

そんな時間帯だったから、食堂の人影はかなりまばらだ。

それもそのはず。

ここはフェンリル支部内にある食堂なのだから。

神機使いの仕事時間はまちまちだが、それでもこのくらいの時間は大抵出払っている。

だから俺とナギサが今ここにいるのは、結構珍しいことだろう。


並べられた料理を眺め、何を食べようかと彼女は楽しそうに悩んでいる。

と言っても食堂の料理だ。

大したメニューもなければ、味もそこそこ。

それでも、こんなご時世に自由に食事をできるのは、すごく恵まれていることなんだろうと思う。

本当は外のレストランに行ってもよかったのだが、彼女がここでいいと言うので従った。

この食堂は、朝夕の配給をいただく食堂とは別の場所だ。

一般的な食堂と同じように、代金を支払って食事ができる。

ちなみに、フェンリルで働く人間なら割安で利用できたりする。

気を遣ったのかもしれないなと、今さらながら考えた。

自分でおごってと言っておいて妙な奴だなと思うが、そこが彼女の可愛げというやつなのかもしれない。

まあ、外に出るのが面倒だったからとか、そういう理由かもしれないが。


食べるものを決めて席に着くと、ナギサは俺を見て首を傾げた。


「タツミさんは食べないんですか?」

「ああ、俺はいいよ。」


腹は減ってないし…と言うと、彼女はそうですかと頷き、持ってきたものに視線を落とす。

スプーンですくい上げたそれを口に運べば、「美味しい」と目を細めた。

ナギサが口にしたのはプリンだ。

例の配給プリンと、大して変わらない味だろう。

ちなみに、その配給プリンってやつは、配給品のくせになかなか美味しいと評判の代物だった。


まるで子供のように無邪気な表情でプリンを食べ進めるナギサの姿は、なんだか貴重な気がした。

なにせ、俺が最もよく目にするナギサという人間は、戦場で迷うことなく剣を振り、容赦なくアラガミを斬り裂く、第1部隊の隊長だから。

しかしよくよく考えれば、ナギサはまだ大人とは認められない年齢だ。

こっちの方が普通であるはずだ。本来ならば。


年相応の女の子らしい笑顔につられ、俺まで自然と笑顔になる。


「女の子って、ホントに甘いものが好きなんだな。」

頭に浮かんだことを思わず口に出していた。


「そうですね。大抵好きですよ。ヒバリちゃんのこと、誘ってみたらどうですか?」

「…もう何回も誘ってる。」

「あはは。そうでしたか。」


俺としては笑いごとじゃない。

一体どうしたらヒバリちゃんはデートに付き合ってくれるんだ。

ため息を吐きたくなってくる。


「ヒバリちゃん、忙しいですから。食事に誘うんじゃなくて、何かプレゼントしてみたらどうですか?」

「何かって?」

「ケーキとか。何か、甘いものを。」

仕事で疲れてるときは甘いものが嬉しいんですよと、彼女は付け足す。


言われてポンと手を打った。


「それ良いな!」


なんで今まで思い付かなかったんだろう。

女の子は甘いものが好きだし、ヒバリちゃんは仕事熱心だし、最高じゃないか。

一人勝手にテンション上がって、何を贈ろうかともうプランを立て始める。


本当に俺は単純思考だ…と、半ば自分に呆れていた時。


「なんか、ヒバリちゃんが羨ましいです。」

不意にナギサがそんなことを呟く。


「え…?」


それは、どういう意味なんだ…?

そう訊こうとしたが、それはできなかった。


「さて。自分でおごってとか言っておいてなんですけど、先に失礼しますね。」

そろそろ任務の時間なので…と、ナギサが立ち上がったからだ。


「ごちそうさまでした。」

そう告げながら、にっこりと微笑む。


彼女のその笑みに深い意味はなかったはずだ。

それはちゃんとわかる。

だから、どうしてこんなに動揺してるのか、自分のことだというのにわからない。


ただ、なぜだろう。

さきほどのあどけない感じと全く違っていたからだろうか。

彼女のその笑顔が、やたら綺麗に見えて。

思わず見惚れてしまった。


この場を後にする彼女を、呆けたように見詰める。

頬に熱が集まってくるのを感じて、顔を隠すように口元を手で押さえた。


(あれ…。なんだ、この感じ…。)




──『あなたの恋に新展開が訪れるでしょう。』
〜Fin.〜

あとがき

初タツミさん。
もう占いの段階でオチが見えてましたね。

彼女が羨ましいと言ったのは、たぶんケーキ。
ごめんね、タツミさん…。
2011/05/20(微修正:2011/11/14)
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