雨の唄

短編 GOD EATER / GOD EATER BURST

きっかけ 〜不意に微笑うキミ〜

失敗ばかりだった。

いつもいつも、みんなに迷惑をかけてばかりだった。

リーダーになってからもそれは変わらなくて、どうして私がリーダーなんだろうと、何度も思った。

それでもここまでやってこれたのは、誰も私のことを責めたりしなかったからだと思う。

これから頑張ればいい、フォローしてやる、努力してることはちゃんと知ってる。

そんな言葉に甘えていた。


だからこれは、弱い私が招いた結果だった。


「…ごめんなさい。」


だから…。


「ごめんなさい、ごめんなさい…。」


涙なんて、流しちゃいけないのに。

泣くなんて、ずるいのに。


「…ナギサ。俺、大丈夫だから。ほら、大したことなかったし。」

コウタが笑顔を向ける。

少し困惑の色を帯びたその声からは、私のことを気遣う優しさが感じられた。


だから余計苦しくなる。


コウタは私を庇ったせいで怪我をした。

決して、軽いとは言えない怪我を。

なのに私は、コウタを安心して休ませてあげることすらできない。


「…ごめんなさい。」

「全然平気だって。俺丈夫だし。そんなに柔じゃないって。」


「でも…」


私のせいで……


「ナギサ。」


私の言葉を遮るようにして、コウタが呼びかける。


その声は、いつもと全然雰囲気が違った。

怒っているわけでも、責めているわけでも、呆れているわけでもない。

すごく真面目で、すごく大人びた、すごく優しい声だった。


でも私は、何も返せなかった。

名前を呼ばれたのに俯いたまま黙っている私を、コウタは今どんな顔で見ているんだろう。


不意にコウタの影が動いて、思わず身を強張らせた。

そんなはずないと思っていながら、殴られるんじゃないかと身体が勝手に反応した。


当然恐れていた痛みなんてくるはずもなく、代わりに訪れたのは、優しくてあたたかい、懐かしい感触。

まるで小さな子供を慰めるように、コウタが私の頭を撫でていた。

おそるおそる顔を上げると、コウタが微笑う。


どきっとした。


コウタはいつも元気で明るくて、笑顔を絶やさない。

コウタの笑顔は毎日見ていた。

…でも、こんな笑顔は初めてだった。


優しい、穏やかな笑み。

私よりも、ずっと多くを背負っている人の、強い人の表情だった。


気付いたら涙は止まっていて、私はコウタから目が離せなくなっていた。

すっと、コウタの手が離れていく。


「あ…。」

思わず声を漏らしていた。


「ん?」

コウタが首を傾げて、私は慌てて何でもないと首を振る。


「落ち着いた?」

「…うん。」

「そっか。よかった。」


にっこりと、コウタがいつもの笑みを見せる。


また、どきっとした。


いつも見てる笑顔なのに、どうして。


頬に熱が集まってくるのを感じて、さらに混乱する。

わけもわからず赤面しているところなんて見られたくなくて、私はコウタから顔を背けた。


(私、もしかして…。)



きっと、これはきっかけ。
〜Fin.〜

あとがき

初コウタ。
子供っぽいのに、不意に大人っぽい表情を見せるコウタがものすごく格好良い。
精神面において、彼は誰よりも強い人だと思います。
2011/04/18
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -