雨の唄

短編 GOD EATER / GOD EATER BURST

ふと目を覚ますと、目の前に広がるのは見慣れた暗がりだけだった。

ベッドに横たわり見上げる、いつもと変わらない自室の天井。

ずっとソファで寝ていたから、最初のうちは、同じ天井だと言うのに妙な違和感を覚えたものだ。

しかし何度も繰り返せば当然慣れて、今となってはこちらの方が普通になっていた。


顔をそらして、ベッド脇の棚に置かれた時計に目をやる。

闇の中にくっきりと浮かぶデジタルな数字が示す時刻は、午前3時過ぎ。

眠りに就いてから、まだ数時間も経っていなかった。

何だってこんな時間に起きちまったんだと倦怠感の残る身体をよじり、そこで気付く。

つい先ほどまで、確かにかき抱いていたはずの温もりが、ベッドから消えていることに。

慌てて身体を起こすと、少し驚いた顔をしてこちらを振り返るナギサと目が合った。

ふぅと一つ安堵のため息を吐く。


「ごめん、起こしちゃったね。」

「…いや。」


むしろ、ベッドから抜け出したその時に起きなかったことが不思議だった。

しかし今は、そんなことよりも気になることがある。


「…仕事か?」


ベッドの端に腰かけ、靴を履いている彼女に、そう疑問を投げかけた。

すでに部屋着程度に衣服を身に付けたナギサは、首を横に振る。


「ううん。目が覚めちゃって。のど乾いたから、何か買ってくる。」

この部屋炭酸しかないし…と彼女は微笑んだ。

苦笑などではなく、優しく穏やかな、やわらかい笑み。

全てを慈しむようなその笑みは、俺の好きな彼女の表情の一つ。


無性に愛おしくなって、腕を伸ばした。

その細い肩を抱き寄せれば、ナギサは寄りかかるようにして、俺に身を預けてくる。

普段はまとめ上げられている彼女の髪がゆるりと肌を撫で、その滑らかな感触にゾクリと背筋が震えた。

せり上がる情動を抑えるように、腕に力を込める。

その白い首筋に唇を寄せれば、ナギサは小さく肩を震わせた。


一呼吸おいて、彼女は「ソーマも何かいる?」と聞いてくる。

暗に、買いに行くから離せと伝えているのだ。

わからないふりをして、腕の力はそのままに、「別にいい」と返した。

諦めたのか、ナギサはやれやれとでも言いたげに小さくため息を吐く。


「…今度は、ソーマのこと起こさないように頑張るよ。」

「頑張らなくていい。むしろ起こせ。」

「起こすのはさすがに…。どうして?」

「…目が覚めたときに、いなかったら焦る。」


自分で随分素直な発言だなと思った。

普段はこんなこと、絶対に口にしないだろう。

寝ぼけているのかもしれない。


ナギサはそんな俺の言葉に、笑うでもなく、からかうでもなく、納得したように頷いた。


「うん、確かに。私も焦る。…というより、不安になるかも。」

「…ん。だから、勝手にいなくなるな。」


それは、寝ている時に限らず。

…そんな意味も込めて言った。


きっと伝わったのだろう。

彼女は少しくすぐったそうに目を細めた。


肩を抱く腕に手が添えられ、ナギサが俺の名前を呼ぶ。

顔を上げれば、彼女がこちらを振り向いた。


目が合い、そして。

僅かな間も待たず、どちらからともなく唇を合わせた。



声に出さずともはっきりと伝わる、彼女の心。

それは同時に、俺の願いだった。

そばにいる

──ずっと、そばに。
〜Fin.〜

あとがき

夜中に叩き起されて、緊急の任務に駆り出されることも、きっとあるんだろうなぁ。
…なんて考えつつ、深夜の一コマを。

ほんのりアダルティ?

だんだん短い文章が書けるようになってきた!…かも?
2011/10/9
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