雨の唄
短編 GOD EATER / GOD EATER BURST
きっかけ 〜正反対なキミ〜
任務の終わり、帰投を待つちょっとした空き時間。「なあなあ、知ってる?」
コウタが切り出した。
任務完了の報告を入れ、回収できる素材はあらかた回収し、討伐目標ではない小型アラガミも殲滅した。
つまり、迎えのヘリが来るまで何もすることがない…という状況だった。
大した時間ではないとはいえ、何もしないでただぼーっと待っているのは意外と辛い。
普段なら、一緒に任務に参加している他の神機使いたちと他愛のない話でもして時間を潰すのだが、今回の任務に限ってそれはあまり好まれたことではなかった。
漂う雰囲気が、気軽に話しかけてくれるなと語っていたのだ。
しかしそんな空気など一切お構いなしに、明るく元気な私の同期は話題を提供してくれる。
「人って、自分とは正反対の人に惹かれるんだってさ。」
「へえ。」
相槌を打ったのは私だけだった。
一緒に任務に参加していた他の神機使い…ソーマとアリサは、無視だ。
2人のこの反応に関しては、もはや“普通”として処理できるほど、何度も経験している。
コウタの方も気にする様子はない。
黙って聞いているのだと判断したのかもしれない。(もしかしたら実際にそうなのかもしれない。)
「だから、例えば俺なら…、強くて、かっこよくて、頼もしいから…。」
コウタがつらつらと(あくまで自己評価による)自分の特徴を挙げていく。
それについて、私はあえてツッこまないことにした。
「ちょっとひ弱な感じの、可愛い子かな!」
バーンッと集中線と効果音が付与されそうな勢いで、彼は言い切る。
『強くて、かっこよくて、頼もしい人』の正反対が、『ひ弱な可愛い子』とは、ずいぶんとおおざっぱな変換だと思う。
まあ、実にコウタらしいと言えるが。
「ふぅん。じゃあ、頼りになるしっかり者なサクヤさんは除外だね。」
ちょっとからかってやろうと思って、コウタがやたらと憧憬の眼差しを向けているサクヤさんを、“コウタの正反対ではない例”として挙げてみた。
「えーっ!!? だめだめだめっ!やっぱり俺は頼もしくない!」
すると、彼はあっさりきっぱりと頼もしい自分を否定した。
こうも容易く自分をけなせるとは、ある意味すごい神経の持ち主だ。
そのことに気付いたらしい彼は「いや俺は頼もしいんだけど、でもサクヤさんのことは好きだし…」なんて、自分で矛盾しているとわかっていながら言い繕う。
本当に彼は面白い人だ。
話していて飽きない。
…というか、からかいがいがある。
「コウタ。君の正反対は、あまりしゃべらないけど、すっごいボケをかますネガティブな子だよ。」
「どんな子だよっ!」
「あるいは、無口で無愛想で、人付き合いが苦手そうな、キツい印象の人だね。」
「誰だよっ!」
「…うーん。ソーマとか?」
「男じゃねーかよっ!」
「惹かれる?」
「惹かれるわけないだろっ!」
一通りからかって楽しませてもらった後、コウタが対象を変える。
「俺じゃなくてさ、ナギサの正反対ってどんなだろ?」
「うーん…?」
尋ねられて首を傾げる。
そう言われても、そもそも自分の性格はどんな感じなのだろうか。
コウタに聞いてみると、「じゃあ特徴を挙げてくよ!」と彼は元気に答えてくれた。
「まずナギサは…、明るい!」
「じゃあ、暗い人だね。」
「たぶん世渡り上手!」
「じゃあ、きっと世渡り下手な人だね。」
「みんなに優しい!」
「じゃあ、誰に対しても冷たい人だね。」
「やわらかい!」
「や、やわらかい…?」
「雰囲気が。」
「ああ、雰囲気ね…。じゃあ、お堅い感じの人かな?」
「んで、よくしゃべる!」
「…なんかコウタにそう言われると心外だなぁ。」
「なんでだよっ!?」
「さてと。じゃあ、無口な人だね。」
「シカト!? シカトですか、ねえっ!?」
ツッコミも一段落し、このくらいでいいか…と、コウタがまとめに入る。
「えーっと、ナギサの正反対は……。」
「暗くて、世渡り下手で、堅い印象で、冷たくて、無口な人だね。」
「…この段階ですげえ思い当たる奴がいるんだけど…。」
「…うーん。アリサ?」
思わぬところで自分の名前を呼ばれたアリサが、びくっとこっちを振り返る。
やっぱり、今まで反応しなかっただけで、ちゃんと話は聞いていたようだ。
素直になれないだけで、本当は会話に入りたいとか思っていたりするのだろうか。
「そっち!? ていうかアリサ女の子だから!性別の段階で全く正反対じゃないから!」
「冗談だよ。」
実は私にも思い当たる人がいた。
アリサではなく、別に。
おそらくコウタが想像した人物と同じだろう。
「…えーっと、じゃあ…。」
私とコウタ、そしてアリサまでもが、完全無視を決め込んでいるソーマに顔を向ける。
たぶんソーマも、アリサと同様に反応しないだけで、きちんと話を聞いていただろう。
彼は会話に入りたいとか、思うんだろうか。
…もっとも、今のこの状況で話を聞いていた事実を認められるような人ではないだろうが。
ソーマは「俺は見てない聞いてない」オーラ全開で、一切こちらを見ようとしない。
これ以上見詰めていても無駄だろうと、私は肩をすくめて視線をはずした。
「…まぁ、第一印象だしね。」
「そうだな!付き合い浅いし!本当は全く違う性格かもしんないし!」
それから間もなくして、やっと帰投時間となった。
アナグラへ戻るヘリの中、さっきコウタと話していたことを思い出す。
(自分とは正反対の人に惹かれる…か。)
神機を抱えて外を見やるソーマに、視線を向けた。
吹きつけてくる風に煽られ、青いコートと白い髪が揺れている。
暗くて、世渡り下手で、堅い印象で、冷たくて、無口な人。
私の正反対として挙げた特徴だが、ソーマという人の印象は、確かにそんな感じだった。
しかしよくよく考えてみれば、確かなものとして印象を決定するほど彼と関わっていないということに、今さらながら気付く。
はじめて会った時、鋭くも暗い眼差しを持つ青色の瞳が、やたらと頭に残ったことを思い出した。
そのくすんだ青い瞳で見ているものが一体どんなものなのか、興味が湧いてくる。
自分とは全く違う性格の、ソーマという人のことを、今はじめて、もっと知ってみたいと思った。
──「人って、自分とは正反対の人に惹かれるんだってさ。」
(…もしかしたら、ね。)
一人こっそり笑った。
これはほんのきっかけ。
〜Fin.〜
あとがき
記念すべき(?)初書き小説。序盤…まだソーマもアリサも冷たーい時期のお話でした。
2010/11/21(微修正:2011/11/14)