お前だけ


『丸井君ー!これもらって!』
『これ私から』
『手作りなんだけど…』
『ブン太君―――』


「おう、サンキューな」



◎バレンタイン◎



テニス部レギュラーなんてのは毎年毎年もらう量はハンパない数で。
もうウンザリしてる奴らがほとんど。
まぁ俺は好きだからいいんだけど。
でもやっぱり好きな人からもらいたいよな?


「すんごい数」


パクパクとチョコを食べていると隣の席から呆れた声が聞こえた。


「おう、名前」
「人気だね、ブン太」
「そんなことないぜぃ」


バレンタインに興味がなさそうなただ一人の女子。
名前―…俺の好きな人。


「よく言うよ、そんだけもらっといて」


苦笑しながらチョコを指差す名前。


「名前は、誰かにあげねぇの?」
「うん」
「ふーん…」


ちょーだい、なんてカッコ悪くて言えねぇし…
俺は名前からのチョコが欲しいんだけどなぁ…


「丸井は名前から欲しいんじゃって」
「は?」
「に、仁王?!」


ヒョコッと現れた仁王が名前に言う。
ポカンとして俺を見る名前。


「な、何言ってんだよ仁王っ俺は…ッ」


“そんなの欲しくないぜぃ”
口先だけの嘘を飲み込んだ。
気持ちと言葉はウラハラ。
欲しくない訳ない。
好きな奴からもらいたいのは当たり前。
恥ずかしさから否定の言葉が出てしまう。
俺もまだまだ中学生だな…


「欲しいの?そんなに貰ってるのに…」
「…ぇ…」


仁王は静かに俺達の傍から立ち去った。


「…、その何十個、何百個の内の一つ」
「…?」


紙袋に入ったチョコを見る


「そんなの、価値ないじゃん」
「…は…?」
「…、っ」
「それは…違うだろぃ」


名前から笑みが消え頬杖をつきながら俺を見る。


「何が違うの?」
「大切なのは気持ちで、価値があるかないかなんて、そいつの気持ち次第だろぃ…?」


らしくねぇかな、なんて自分でも思う。


「…、らしくない」
「へへ、やっぱり?」
「ブン太じゃない」


そう言って小包を差し出される。


「……私のこと」


受け取ったそれは、ピンク色の包装紙に赤いリボンと、可愛いラッピングだった。


「え、くれんの?」
「…うん」


頬を赤く染めて頷く名前はすっげぇ可愛くて、
嬉しくて嬉しくて開ける手も震える。
カサ…

ビヨーンッ…


「ぉわっ?!」
「ッあっはっはっは!」


な、何だよこれ?!
ビックリ箱?!

目の前で爆笑する名前。


「…な…っ」


ビックリしすぎて声が出ない。


「チョコはもういらないでしょ?」
「ぇ…?」
「だから、サプライズ」
「…ぁ…ぇ?」


ニッと笑う名前。
何か拍子抜け…期待してた俺って…


「俺、…名前からのチョコは欲しかった…!」
「ぇっ…?」
「好き、…だぜぃ…」
「…っホントらしくない」


真っ赤な顔を逸らしながら渡されたそれは、
名前自身が初めてあげる、バレンタインチョコだった。


「私も…、好きだよ」


Happy Valentine!

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