華めく贐




昼になって知ったのだ。


今日は錫也の誕生日だと。


…さーてどうしようか。ここのところ課題やら課題やら課題やらで日付なんてすっかり見ないで暮らしていたから今朝月子ちゃんに、

「おはよう咲月ちゃんっ!今日は7月1日だねっ」

なーんて言われてそうだね月子ちゃんマジかわゆすぐへへだなんて思いながら普通に登校したわけだが。今日は錫也の誕生日だったのだ、通りで月子ちゃんが張り切るわけだよ。大切な幼なじみの誕生日だもの。

『Incroyable…それ、錫也が知ったら相当ショックだよ…』

「デスヨネー…」

錫也の誕生日が今日だという事実に戸惑いを隠せなかった私は、とりあえず屋上庭園に来て、フランスにいるハーフに電話をかけた。学園内で「えっ今日錫也誕生日なのマジで?」とか溢そうものなら隆文くんや颯斗くんを初め神話科のクラスメイト全員に苦笑され、それがなんやかんやを経て本日の主役に伝わりかねないからだ。フランスにいる羊になら、相談しても漏れるこたぁないよな!という実に安直な考え。さすが私クオリティ。ちなみに今は5時間目。

「ど、ど、どうしよう羊…!」

『とりあえずなんか作ってあげたら?タルト・タタンとかマカロンとか、』

「それは羊が食べたいものでしょ!」

バレたか、と電話の向こうで息を漏らす羊。そりゃバレるよ。

『じゃあキスの1つや2つかましてやれば?』

「お前私の唇をなんだと思ってんだよコンチキショウ」

『別になんとも。あー、月子が僕にキスしてくれたら僕、これからの仕事頑張れるのになあ』

「私の投げキッスならくれてやろう」

『仕方ない、それでいいよ』

「……………………」

この野郎。
相変わらず月子ちゃん一筋ですね、キモいです!という思いをこめて海の向こうのハーフにリップ音を鳴らして投げキッスを送ってやった。

『………咲月、僕のこと相変わらず月子一筋ですね、キモいです!って思ってるのか…』

「あれえ届いてる!!?」

そんなバカな。驚愕していると、電話の向こうで羊を呼ぶ声が聞こえた。なるほど、タイムリミットか。

『ごめん咲月、僕もうそろそろ…』

「うん、了解。ほどほどに頑張ってね」

羊はMerci、と言うと電話を切った。私も携帯を閉じて、よし錫也の誕生日プレゼントでも調達しに行くか、と振り返ったとき、

「咲月」

「ぎゃあああ錫也!?」

いつから居たのか、どこから湧いてでたのか、妙に悲しそうな顔をした錫也が、居た。気配消すなよ怖いな。

「………羊と何話してたんだ?」

「いっ…やあ、別に、何も」

「…………」

明らかに不自然な答え方をしたのに、錫也は不審がることもなくそうか、と笑った。逆に私が不審に思ってしまう。

「……錫也?」

「うん?」

「なんか悪いものでも食べたの?」

「………………………………月子の料理を」

「…………」

マジで悪いもの食べてた。

「珍しいね、今日は月子ちゃんがお弁当作ったなんて」

「あ、ああ…そう、だな…」

どこか言いにくそうな錫也に首を傾げながら、何かあったのかしらと考えて、今日は7月1日だったことを再び思い出した。なるほどね!錫也の誕生日!

「…………」

「…………」

訪れる沈黙。どうしよう、どうやってこの空間を爽やかに抜け出そうか、と目が泳ぐ。

「咲月」

ふー!やっべえこりゃ逃げ出す?逃げ出すか?いやいや落ち着け咲月、一回でも錫也大魔王から逃げ切れたことはあるか?……………………いや、ない。つまり逃げ切ることは不可能、か。

「咲月?」

「(いやいや、不可能なんかじゃない)」

確か逃げるためには羊が『キスの1つや2つかましてやれば』と言っていた気がする。……あれ、違ったっけ?まあいいや!

「咲月…?」

「錫也っ!!」

「はい!?」

私がパッと顔を上げると錫也は一瞬身を竦めた。

「ちょっと失礼」

「え、―――」

背伸びをして錫也の頬に口付ける。ゆっくりと唇を離すと、途端に恥ずかしくなって、顔が真っ赤になるのを実感した。

「………!」

「……あ、えと、た、誕生日おめでとうございましたああああ!!!」

呆然としている錫也の顔も見ずに、私は屋上庭園を走って出ていった。









めく贐






















バタンッ!と屋上庭園のドアが乱暴に閉まる音を背中で聞きながら、錫也は先程の出来事を脳内で反芻させ、にやける頬をおさえてうずくまったのだった。


















◎リア充末永く幸せに爆発しろ


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