vol.08



「おぅるああああああ!くらえハットトリック!」

「それ普通に蹴りじゃねーか!いってええええええ!」

「アッパーカット!」

「だからそれ普通にパンチ…いってーよ!」

無理矢理講座を受けさせられて不機嫌真っ直中の私は、気合いをいれて不知火会長を攻撃し続けた。隣の席では四季先輩が突っ伏して寝ている。私達の騒音も気にならないようだ。すごい。

当然今は講座終了後。昼休みの時間だ。本当はダッシュで宇宙科のやつらのもとに向かわないといけないのだが、四時間目をサボって安らかな眠りにつく、という行為を妨げられた私の恨みは深い。そんなわけで私は梓と翼のもとに向かうことなくラスボスと格闘していたのであった。負けねえ。私は負けねえ。

「飛び蹴りと見せかけて回し蹴りいいいいい!」

「あっぶね!」

「よけるなああああああ!!」

「よけるわああああああ!!!」

「すー…すー…」

強い。四季先輩強い。寝ていらっしゃる。

「不知火会長の親父!!」

「どーいう意味だコラああああ!!?」

「そのままじゃああああ!!」

「うおおあああああああコンパスはやめろおおおおおお!!」

「すー…すー…」

四季先輩まじですごいと思う。不知火会長にとどめをさそうと思ったが、突然腹の虫がぎゅるる、と騒ぎ始めたのでやめた。

「お腹空いたー…」

「食堂行くか?」

「ん…」

「うわっ四季先輩いつの間に起きたんですかっ」

「さっき」

「あ、そうですか…」

マイペースだな…。
ほら満ー、飯行くぞ!と不知火会長が誘ってくれたが、先約があるのでと断って、私は宇宙科の教室に向かった。

























「失礼しまーす」

宇宙科にひょいと顔を出すと、騒がしかった宇宙科の教室がしいんと静まった。……え?なに?やめてよ怖いな。

あまりの静けさにキョドっていたら、すぐにわっと囲まれた。そして「大丈夫か?」とか「よく無事だな」と安否を確認したような声を掛けられる。え、なに宇宙科いい人ばっかりだな!あ、星詠み科の人達も心配してくれたけどさ。

大丈夫ですよ、心配してくれてありがとう、とへらりと笑って告げると、宇宙科の人達も笑顔で返してくれた。

ああなんか交流が広がりそうだ。よかったよかった、と安心していると、突然体がふわりと持ち上がった。え、え、なになになにごと?一瞬、自分がなにされてるのか理解できなかったが、一拍おいて理解した。

翼に担がれていたのだった。

それも俵担ぎ。担がれたまま教室を出て歩くものだから、歩くたびに翼の肩が私の腹に食い込んで腹にダメージを受ける。おかげでますます腹が減ってしまう。

「え、ちょ、翼!?」

「ぬははっ」

「いやぬははじゃなくてさ」

尻が正面にくるよう担がれているので前の様子が全く見えない。そもそもこの担ぎ方でパンツ見られてないか心配だ。まあ見られても別に減るものじゃないからいいんだけど。でも一応確認しとこう。

「翼さん翼さん」

「ぬ?なんだ?」

「こんな担ぎ方ですけど私のパンツ丸見えとかじゃありませんよね?」

「ぬははは!誰も満のパンツなんか見ないから安心しろ!」

「そりゃそうなんですけど!なんか地味に傷つくな!」

そういえばそもそもどこに向かっているんだろうか。

「屋上庭園だよ」

「あれ、梓いたの?」

「………いたよ」

前にいる(らしい)梓の声色は、いつもの自信に満ちあふれたような声でなく、どこか沈んだ調子だった。どうしたんだろう、お腹でも痛いのかな。仕方ない、あとで保健室にでも引っ張って行くとするか。

とりあえず私は翼に身を任せて、迫りくる空腹と戦うことにした。
ああお腹空いた!






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