vol.07
「有り得ない」
「………」
保健室のベッドで目覚めた私に、星月先生は開口一番にそう言った。「大丈夫か」とか「具合はどうだ」とかじゃなく。
「どういう意味ですか…」
「どういう意味ってお前…そのままの意味だ。普通なら脳震盪、悪くて脳内出血に値する怪我だぞ…」
説明してるってことは私はどちらでもないのであろう。
「で、私は?」
「たんこぶ一つだ」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………有り得ない」
「だろ」
丈夫すぎだろ、私の体。頭部にもろサッカーボール食らってたんこぶ一つとか…。
「はぁ…もう授業出る気失せた。寝ます」
「サボりはよくないぞ、日立ー」
「先生こそ職務怠慢はよくないですよ」
もぞもぞと布団を被って、再び眠りにつこうとしたとき、保健室のドアが乱暴に開けられた。それにビクついて、思わず身を起こす。 カーテンで遮られているので誰が来たのか検討がつかなかったが、その心配は皆無だった。 すぐにカーテンが開けられて、誰が来たのかわかったからだ。
「不知火会長」
「………っ、」
不知火会長は私を見て顔を歪ませると、何かを堪えるようにして一旦口元を押さえてから、
「このバカッ!!!」
怒られた。
「ほら満、ごめんなさい、は」
「ごめんなソーリー」
「………………………」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたたたたたた…痛いっつってんでしょうがあああああ!!」
全力ででこをぐりぐりされた。 ちょっと茶目っ気を出しただけでこれだよ!頭固いなおっさんめ!
「誰がおっさんだとおおおおおお!?」
「えっ会長エスパー!?」
「思いっきり口に出してましたけど!」
な、なん…だと…。全く私ったら素直すぎ!…というか今気付いたんですけど、
「私なんで謝罪を強制されてるんですか」
「それはお前、あれだよ」
「いやどれだよ」
「……こ、この俺を心配させたんだからな。謝罪して当然だ!そういうことだ」
「前々から思ってたんですけど、不知火会長、俺様キャラの軸ぶれてますよ」
「キャラとかいうな!」
「あとその前髪どうかと思う」
「関係なくねえええええええ!?」
不知火会長が叫んだ直後、真横から眠そうな声で注意された。
「うるさいぞお前ら。俺が寝れないだろう」
「ああ、すいません星月せんせ…いやいやいや寝るなよ!!仕事してください!」
「器用だなこの人」
不知火会長の指摘も無視して椅子に座ったままぐーすかと寝始めたぞ。ちなみに机上の書類は真っ白だった。
「相変わらずの職務怠慢振りですね。尊敬に値します」
「いや尊敬しちゃだめだろ」
「職務怠慢王に、俺はなる!」
「コラ!真面目に勉強し…」
「ですよね、不知火会長!」
「俺かよ!?」
不知火会長の相手をするのも疲れたな。そういえばまだ三時間目だっけ、そうだ寝よう。
「じゃあ、不知火会長、」
「じゃあ、ってなんだ。待て、何故布団をかぶる」
「次って確か合同でしたよね。先生に日立満は休むって言っておいてくれませんか?え?言っといてくれる?本当ですか!!?ありがとう不知火会長!」
「…え、俺返事すらしてないんですけど」
「ありがとう不知火会長」
「………………」
「………………」
「………………行くぞ」
「あああああ出たくないー!寝ていたい!」
私の反論も虚しく、私は会長に問答無用で教室に引っ張られていきました、とさ。 覚えてやがれ!変な前髪男!
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