vol.05
「やっぱり混んでますねー」
「そうだなー」
「………」
食堂に行くと、人でごった返していた。…といっても配膳が混んでいるだけで席はまだまだ余裕がありそうだ。さすが星月学園。
人の波を眺めながら、もぐもぐとオムライスを咀嚼する。うまうま。 半分くらい食べたところで、向かい側に座る不知火会長と四季先輩がじっとこちらを見ていることに気付いた。え、な、なに?
「先輩方、私の顔に何か付いてますか?」
そうだとしたらかなり恥ずかしい。しかし会長と先輩ははっと我に返ると、二人揃って「なんでもない」と言った。なんのこっちゃ。
「お前、美味しそうに食うな」
「そりゃ美味しいですもん」
「まぁなー」
「………」
「四季先輩?」
「ん」
四季先輩は、自分の頼んだ定食についていたデザートをくれた。美味しそうな桃だった。
「いいんですか?」
「ああ」
「わーい!ありがとうございます!」
桃好き。 オムライスを食べおえて桃をもきゅもきゅと頬張っていると、突然後ろから肩を掴まれた。うん?なんだ?
振り向くと、そこには汗だくなうえ眉間にしわを寄せた梓。怖い。般若みたい。
びっくりして目を見開いたまま梓を見ていると、梓はにっこりと笑って、
「満?ちょーっと、いいかな?」
「………」
選択肢の余地は、なかった。
忘れてた。忘れてたよ。お昼は宇宙科組の彼らと食べるって約束していたのを。 ちなみに屋上庭園に連れてこられました。私は正座、梓は仁王立ち。翼はなんかそこらへんで走り回ってる。
「なんで食堂に居るの」
「………お腹空いたから」
「だから僕らが迎えに行くまで待ってろっていつも言ってるよね?」
「あ、あう、ご、ごめんなさい…」
「ぬははっ!まぁ、いいじゃん梓!居たわけだしー」
翼がぬっぬぬっぬっ、と妙な歌を口ずさみながら私の頭をぐしゃぐしゃとかきまわした。保身してくれたのはありがたいが髪をぼさぼさにされるのは頂けない。いくら簡単なショートヘアとはいえ翼がぐしゃぐしゃにしたあとは櫛通さなきゃいけなくて大変なんだよ…。
梓は、私と翼を見て溜め息を吐くと、仕方ないなあ、と言った。いや本当申し訳ない。
「次やったらでこピンだからね」
「なんでこぞって私のでこを狙うわけ」
言っておくけど私そんなでこ広くないぞ。そもそも前髪で隠れてるぞ。
「ぬはは!」
「あいたっ!何するのよ翼!」
「ぬはははは!でこピン!」
「知ってるよ!やられたからわかるよ!何故したのかを聞いてるんだよ!」
「気分」
「あ…そうですか」
なんて自由なんだ。
「はあもう疲れた…」
「うぎゃあ!」
突然梓が私の膝を枕にして寝転んだ。
「あ、梓ずるい!俺も寝るー!」
「ちょ、何してんの君達」
右ひざは翼、左ひざは梓。二人して私のひざを枕にしやがって!ちくしょう私も寝たい!しかし寝れない。 手持ちぶさたなのでなんとなく翼を撫でた。よしよし。
すると今までぬはぬは笑っていた翼が、突然無表情になる。え、なに、私なにかした?痛かった?
「翼、どうしたの?」
「……え、あ、いや、な、なんでもない!」
最初こそ歯切れの悪かった翼だったけど、次第に我に返ったのかなんなのか、いつもの翼に戻った。
梓はガチで寝ている。すーすー、と規則正しい呼吸音が聞こえた。
「翼も寝れば?」
「ぬは、そうする」
「おやすみー」
「みー」
寝入った二人をひざの上で見つめてから、晴れ渡った空を見上げた。本日も晴天。明日も晴れそうだ。
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