vol.02



オリエンテーションってなんだろう。何のためにあるんだろうか、と誰もいない教室で頬杖ついてぼんやりと考えてみた。
机の上には白紙のプリント。印刷された文字には『グループ申請書』。ここに自分の名前と組む人二、三人の名前を記入して先生に提出するのである。

しかし私には友達がいない。

「なんてこったい…」

これは問題である。何度かクラスの男子にグループに入れてくれと頼んでみてはいるのだが、皆さん思春期なのかやんわりと断られます。こ、コノヤロー。性別なんて関係ないじゃないか!男女平等これ基本。

シャーペンを持ちかけて、やめた。どうすればいいというのだ。こちらが歩んでも向こうが退いていくのだから、この場を動かざるを得ないじゃないか。

はあ、と軽く溜め息をついて机にごつんと頭を押しつけた。このにっくき『グループ申請書』は今日が期限なのである。ああどうしよう、泣きたい。

すると突然、視界の隅に何かがよぎった。それは、オリエンテーションで楽しそうに笑っている、私。つまりオリエンテーションでは誰かしら友達ができる、ということか。ああ、こういうとき未来見えると便利だよなあ。ただその日付とかさ、出てくれるとさ、文句ないのよ。

うー、と呻きながら頭をぐりぐりと机に押しつけた。誰かー、ハブでもいいからグループになってよー。と、

「なにしてんの…?」

後ろから、呆れたようなドン引きしたような声が聞こえた。突然のことにびっくりして体が震える。え、誰?と思って振り向くと、

「あ、う、え、えっと…」

「何?」

いつかのぱっつん男子だった。腰に手を当てて、不思議そうに私を見ている。

「どうしたの、日立さん?」

「え、なんで私の名前…」

「なんでって…」

「ぬっぬー!君が有名だからなんだぞ!」

「うぎゃあ!」

後ろからどすっと乗っかられてビビった。見ると、入学式で生徒会長から指名されていた男子だった。えーっと、確か名前は…。

「あ、天羽翼くんだ」

「ぬお!あったりー!」

天羽くんはぬはは!と笑いながら私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「あああ髪ぼさぼさあああ」

「ぬははは!」

「ちょ、なに笑って…うわあ!!?」

突然腕を掴まれた。天羽くんではなく、目の前のぱっつん男子に。ぱっつん男子は何故か私を睨んでいる。空気を読んで私からぱっと離れる天羽くん。

「なんで翼の名前は知ってるのに僕のは知らないの」

「え…ごめんなさい」

なんで謝ってんだ私。そりゃ知らねえよ!学科違うし。天羽くんはたまたま覚えてたんだよ。

「じゃあこれから知るわ。私、日立満」

「木ノ瀬梓。梓って呼んでくれていいよ」

「よろしくね、…あ、あず、………木ノ瀬くん」

「なんでやめたの」

「え、いやぁ、その、」

いいのかいきなり呼び捨てで。

「俺は天羽翼ー!」

知ってるよ天羽くん。

木ノ瀬くんは眉を寄せて不機嫌そうに私をじっと見つめると、急にぐっと顔を寄せた。近い。

「梓って呼んで」

「………………あ、ずさ」

「よろしい」

木ノ瀬くん――梓は満足したように頷くと、ぱっと腕を離して顔を退けた。天羽くんが再び後ろから抱き付いてきて「俺も翼って呼んでほしいー!」と喚くので呼んでやった。

「はいはい翼翼」

「ぞんざい!」

ぬっぬぬーん!と言いながら私の頭をぐしゃぐしゃにする翼。もう好きにしてくれ。

「じゃあこれで決まりだね、満」

「え、なにが」

にっこりと笑顔の梓。嘘臭い。なんだかすごく嘘臭いぞ。若干警戒しながら聞くと、梓は一枚の紙を取り出して言った。

「オリエンテーションのグループ」






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