vol.22



夏休みに入りました。終業式はいつもどーりというかなんというか、不知火会長の暴君発言で終わって、テンション高い先輩や同輩たちは拳を突き上げて夏休みという長期休みを謳歌しようと雄叫びをあげてました。さすが元男子校、うるっさいのなんの!しかしこの雰囲気、嫌いじゃない。

「あっ、満ちゃん」

「せーんぱーい!!」

式が終わり、HRも終わってさて帰ろう!と教室を出たら、学園のマドンナに名前を呼ばれた。当然、すぐさま駆け寄る。後ろにはやっぱりというかなんというか錫也先輩と哉太先輩が居て、まるで姫と騎士だなあと柄にもないことを考えてしまった。

「くひひっ、こんにちは〜、フェアリーちゃん」

「うお!?」

月子先輩の傍に居たのは錫也先輩と哉太先輩だけじゃなかった。でかくて気づかなかったけど、真っ赤で長い髪をツインテールにした先輩が、何故かカメラを構えて私に話しかけてきたのである。

「うおお変態だっ!」

「ややっ!?初見で俺の正体を見破るなんて…フェアリーちゃん、やるな…」

「ふはは!恐れ入ったか赤毛魔神!」

「ぐっ…冥土の土産に1つだけ教えてやろう…俺の名前は白銀桜士郎…変態の中の変態さ!」

「先輩なんですかこれ」

妙にノリのいい赤毛魔神を指差すと、錫也先輩が苦笑しながら「白銀先輩だよ」と教えてくれた。誰やねん。

「あらっ、フェアリーちゃん本当に俺のこと知らないの!?」

「知らないよ!私友好関係狭いよ!意外と友達居ないよ!」

「やめてなんか空しくなってきた」

顔を両手で抑える白銀先輩。嫌だな冗談ですよちゃんと友達居ますよ、

「な、白樺くん!」

「えっ!?あ、ああ、うん」

そこらへんに居たクラスメイトに話を振ったらひどく驚かれた。おいお前この前私と同じ班だっただろうが。仲良くなったと思ってたのは私だけかコノヤロー。

「なんか空しくなってきたよ…」

「お前もかよ」

うえーん哉太せんぱあああい、と哉太先輩の腰に抱きついて泣いてみる。先輩はよしよしと乱暴に頭を撫でてくれた。頭ぐしゃくじゃだよどーしてくれんだ鳥の巣。

「鳥の巣とか言うな!!」

「えっ哉太先輩なぜ私の心を…」

「おもいっきり呟いてたぞ」

なんですと。

「それよりフェアリーちゃん!」

「きゃああああああ」

突然視界が真っ赤に染まって、私はびっくりして先輩を思いっきり突き飛ばした。

「ぎゃあ!」

「ぐえっ」

哉太先輩の後ろから顔を覗かせていた白銀先輩は、私の哉太先輩攻撃を食らって倒れた。もちろん哉太先輩もだ。

「はあびっくりした」

「こっちがびっくりだわ!!!」

「いいから…早く退いてくれると嬉しいな…」

「あっ、す、すみません白銀先輩」

慌てて哉太が起き上がり、白銀先輩もやれやれどっこいしょと立ち上がる。

「白銀先輩、今日はどうしたんですか?」

月子先輩の言葉に、白銀先輩がああそういえば、と思い付いたように口を開いた。

「そうそう、今日はね、フェアリーちゃんに用事があってね」

「誰ですかフェアリーちゃんて!!」

「お前だよ満」

「!?」

私だったのか。気付かなかった。
哉太先輩に言われて驚愕の表情を浮かべていると、お前本当アホだなと言われてデコピンされた。

「何すんだこの前髪ハゲ候補!」

「候補!?」

「くひひっ、もしかして前髪ハゲは一樹?」

「アタリー!不知火会長は近いうち禿げます」

「それ、星詠み?」

「いえ、私の願望です」

「お前の願望かよ」

はい!と元気よく答えたら哉太先輩に無言でチョップされた。痛いなコノヤロー。

「で、フェアリーちゃんに2、3質問いいかな?」

「おう!どんと来いよ!」

「まずその1、フェアリーちゃん今好きな人いる?」

「へっ?」

なんだその質問。色恋系なの?いやいいんだけどね。

「いませんよ!」

「あら、そうなの?」

「そうだよ!」

ふーん、そっかあ、と言って手帳にメモる白銀先輩。

「ちなみにマドンナちゃんの好きな人は?」

「ええっ!?」

いきなり話を振られて戸惑う月子先輩。どうしようどうしよう、と焦ってる様子が可愛い。超可愛い。が、後ろにいる錫也先輩と哉太先輩の顔が怖い。

「い、居ませんよ!」

「くひっ、あら残念」

「おい赤毛魔神早くしろよ」

「おっと、ごめんよフェアリーちゃん。じゃ、次の質問ね」

「うい」

「エジソン君のこと、どう思う?」

えじそんくん?
…って誰?と月子先輩を振り仰ぐと、翼君のことだよ、と教えてくれた。へー!翼エジソンくんって呼ばれてんだー!かっこいー!

「翼は、いい友達だよ」

「……なるほど。じゃあ、ルーキー君は?」

「ルーキー?梓のこと?」

「そそ」

「…………うーん」

梓。梓ねえ…。この頃、梓のことが思い出したように胸に引っ掛かるときがある。これは一体何なのか。よくわからないや。とりあえず梓はね、

「梓は、涙が似合わない存在」

「…………ふむ」

私の言葉に、白銀先輩は神妙に頷いて、月子先輩たちが「確かに」と笑った。

「確かに木ノ瀬君はいつも勝ち気だよね」

「あいつが泣くことなんてないだろ」

「ま、哉太はすぐ泣くけどねー」

「うるっせえ!」

一言余計なんだよお前は!と月子先輩にデコピンする哉太先輩。それを見て笑う錫也先輩。こいつら本当仲いいな。
と、不意に白銀先輩が手帳をしまった。

「うん、いいデータも取れた!ありがとね、フェアリーちゃん!くひひっ」

「あれ、もういいんすか?」

「うん、十分よん」

じゃ、俺は生徒会室に寄って帰るから〜!まったねーん!と言って白銀先輩は去っていった。一体あの質問はなんだったんだ。この学園は本当によくわからない人が多い。

「じゃあ満ちゃん、一緒に帰ろう?」

「はい!」

まあそんな私の疑問は、マドンナの笑顔に魅了されてすぐに頭からすっぽ抜けてしまったわけだけど。






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