vol.21



試験!終わった!
頑張った、頑張ったよ私!乗りきったよ!疲れた。
放課後、正面玄関に張り出されている学年別成績上位者の紙を見たら、高1の欄の首席と次席に見慣れた名前があった。はいはい頭いいねはいはいはい。

「どうせ私はバカですよ」

ふふん、だ。あれ、言ってて悲しくなってきた。もうやだ。次席に鎮座する名前を睨み付けて、ふんっと鼻を鳴らして踵を返すと、

「んにゃっ」

ぶつかった。「ご、ごめんなさい」と素早く謝って顔を上げて……………後悔した。

「何してんの、満」

「……別になにもしてないよ」

次席の人だった。弓道着を着ているから、これから部活なのであろう。

「部活?」

「そうだよ、満も来る?」

「いや、私運動できないから」

「だよね」

「てめー」

聞いといてそれか。まあいいけどね、事実だし。

「頑張ってね、梓」

「……うん、ありがと満」

なんだ今の間は。…まあいいけど。それじゃあ、と言って梓の横を通り抜けると、私は試験終わりの解放感に再びを身を委ね、軽い足取りで寮へ帰宅。
















『頑張ってね、梓』

先程の満の声が脳内再生される。ああもうここまで来ると末期だな、自分どうかしてるわ。

「…………」

自然と緩む頬を抑えて、僕は少しだけ振り向いた。満の後ろ姿が見える。試験が終わってご機嫌なのか、スキップだ。

「(………あれは転ぶな)」

と思った矢先、満は滑ってびったーん!と顔面を床に強打した。ついでに「むお!!?」とすっとんきょうな声を残して。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………早く起きなよ」

いつまで経っても起き上がらないので、仕方なく近付いて声をかける。が、返事はない。

「満?」

「…………無様だ……」

「何を今さら。ほら、早く起き上がりなよ。制服汚れるよ」

はい、と手を差し出すと、満はかたじけない、と言ってなんの躊躇いもなく僕の手をとった。どき、と鳴る心臓。

「よっこいしょー」

妙な掛け声で立ち上がる満。制服についた埃を払うためにぱっと簡単に離された手が寂しい。
その寂しさを紛らわしたくて口を開いた。

「…もう転ばないでよね」

「うん、たぶん」

「多分て」

転ぶのは私のステータスだからね!とどや顔で言う満。相変わらずよくわからないやつだ。

「仕方ないなあ、満。この僕が寮まで送っていってあげるよ」

転んだ拍子に遠くまで転がっていった満のカバンを背負いながら言うと、満はあわてたように、

「えっ、いいよ別に。私なんかより部活行ったほうがいいんじゃないの」

「大丈夫大丈夫、金久保部長なら許してくれるよ」

はい、行くよーと玄関を出ると、満はいいのかなあと小首を傾げて付いてきた。いいんだってば。

「僕がもっと満と居たいだけだし」

「なに?なんか言った?」

「いいや、なんでも」

ほら、と手を出すと、満は素直に繋いでくれた。ああこの距離が恨めしい。






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