vol.14



やっと1日が終わって、さて今日は図書館にでも寄って帰ろうかしらと思い立ったときに、頭の中で映像がフラッシュバックした。
夕暮れの教室、片手のホチキス、散らばった紙、そして―――

「日立」

「ぎゃあ!」

突然肩を叩かれて、私はビックリして飛び上がってしまった。振り向くと、クラスメイトの柊君が驚いた表情で私を見ていた。びっくりさせてしまったようだ。

「ひ、柊君……なんだい、私に何か用かい」

「ああ、あのさ、これ…日立の分なんだけど…」

差し出されたのは大量の紙束。なんだこりゃ、これがなんだ。

「今日、日立、日直だって知ってたか?」

「は、」

…………知らんかった。なに、今日私日直だったわけ。なにそれ聞いてない!

「だって日立、休み時間全部寝てたから…」

「…あー…」

話しかけられなかったってか。星詠み科の男子って本当奥手だよね。宇宙科の男子なんかこの前私にタックルしてきたぞ。この差はなんだ。

大量の紙束とホチキスを柊君から受けとる。

「ちなみにこれ、いつまで?」

「今日の放課後」

「…………」

なう!タイムリー!
やれってか。今やれってか!やるけどね。私授業中は寝ちゃうけど提出物欠かしたことないんだもんね。これ提出物じゃねーけど!

「…………手伝おうか?」

おずおずと柊君が聞いてくるが、心配はいらないよ柊君。ノーセンキューノーセンキュー、私頑張るよ。

「いや、一人でやるよ」

「そうか?」

「うん、頑張る」

柊君は再び頷くと、じゃあ、俺部活だからと去っていった。
さてやるか、と席についてプリントをまとめ始める。途中、何度かクラスメイトと話したりトイレに行ったりしたが、この調子でいけば終わりそうだ。

「おっ」

ラスト一部。ぱちん、とホチキスで右端を留めて、雑用はやっとこさ終わった。
外を見ると夕方で、オレンジ色の光が教室に差し込んでいる。さすがにこの時間だと教室にいるのは私一人だけだった。

「さて、」

これを先生に届けないと、と席を立ちプリントを抱えたとき、ガラリと後ろの教室のドアが開く音がした。誰か入ってきたようだが私は一刻も早く先生にこれを届けなければ、と踏み出したところで、

「日立満さん!!」

「ふえっ!?」

急に後ろから名前を呼ばれて、プリントを落としてしまった。ばらばらと散らばるプリントの束。あーあ…何故か辛うじてホチキスは持っていた。
それより私を呼んだのは誰だ、と振り向くと、見慣れない男子が、いた。ネクタイは緑。同学年だ。見慣れないから星詠み科の男子ではないし、私の記憶が確かなら宇宙科にもこんな男子は居なかったような。

「あ…あの、なんですか」

おずおずと聞くと、男子は一度うつむいたあと、決心したように顔を上げ、口を開いた。

「俺、君のことが好きなんだ。付き合ってください!」

…………えっ?


















とりあえず、だ。
陽日先生がしつこいから、とりあえず、見学だけは行こう。それで、僕の性に合わないようだったらやめればいい。そうだ、そうしよう。

「…ってそう思ってるのに…」

何故だろう、気付いたら自分の足は自然と1年の星詠み科の教室に向かっていた。やはり、一人では不安なんだろうな。誰かに話を聞いてもらって、人は初めて安心するって言うしね。
なんて、自分の気持ちを客観的に眺めて、星詠み科の教室に足を踏み入れようとしたとき―――、

「俺、君のことが好きなんだ。付き合ってください!」

教室から聞こえてきた声に、僕は思わず身を竦めた。そして、教室に入るのをやめ、ドアに隠れて中を伺う。

「……っ!」

教室には、後ろ姿の男子と、片手にホチキスを持って唖然としている満の姿があった。

満は少しボーッとしたあと、すぐさま我に返った。そして、二言三言男子と言葉を交わしたあと、確かにこう言ったのだ。


「ごめんなさい、私…好きな人がいるんだ…」


「っ…!!」

ドクン、と心臓が跳ねた。なに?なんだって?

満に、好きな人が、いる?

「……、」

なんだか妙に息苦しくなって、僕はその場から逃げるように駆け出した。
走って走って走って、気が付いたら自分の寮の前まで来ていて、自分の中にある感情の名前がなんだかわからなくて、もどかしい気持ちを宥めるように、僕はゆっくりと目を閉じた。






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