vol.11
「四季せんぱーい」
「ん、どうした満」
廊下で妙に目立つ見知った先輩の後ろ姿を見掛けたので後ろから抱き付いてみた。四季先輩は突然こんなことしても微笑んで応対してくれるから好きだ。
「いえ、特に用事はないです」
「そうか」
「………………」
「………………」
会話がない。そもそも私が四季先輩に後ろから抱き付いているからお互い顔が見えない。どうすればいいんだろう……あ、私が抱き付くのやめればいいのか。
四季先輩から手を離して、先輩の前に回り込むと、先輩は私の顔を見るなりフッと微笑んだ。…いや、笑われたのかな?まぁ、いいや。私あの血の繋がってる宇宙科組のおかげでメンタル面強くなったんだよね。だから笑われたぐらいで落ち込むとかしないよ!本当だよ!
「満」
「はい?」
四季先輩に呼ばれて顔を上げると、先輩はよしよしと私の頭をひとしきり撫でて「じゃあ」と言って去っていった。クールだなあ、四季先輩。私も教室に帰ろうかな、うん帰ろう。どうせやることないし、購買寄ってお菓子買ってから寮でのんびりしよう。
「あ、満」
梓の声に顔を上げて従兄弟の顔を見ると、その視線の先に満が居た。 満はぴょこぴょことまるでヒヨコのように歩いていて、なんだか笑える。あの子、いつもあーゆー歩き方なのか?
声を掛けようと一歩大きく踏み出したが、それより早く満が動いた。
満はいきなり走り出すと、前方を歩いていた俺の見知らぬ先輩にがばりと後ろから抱き付いた。ぬぬ、うらやましい!
「………」
ふと隣の梓を見ると、彼は眉を寄せ目を剥いて固まっていた。つまり鬼のような形相で俺の隣に突っ立っていた。怖い。
「あ、あずさ…?」
「…………、……なに」
恐る恐る声を掛けると、梓はハッと我に返って、不機嫌そうにじろりと俺をねめつけた。
「なに、翼」
「や、別に」
「………ほら、行くよ翼。これ、陽日先生に提出しなきゃいけないんだから」
「ぬ〜、梓の用事じゃん…」
「なんか言った?」
「べっつにー」
満と先輩を視界から追い払うようにして、梓は職員室へと足を進めた。
梓の恋は前途多難のようだ。
―――そんで、俺もね。
お菓子を買って、さて帰ろうかと寮への帰路を辿っていると、木の根元に座り込んでぼんやりしている四季先輩に遭遇した。 あれ、また会いましたねー、と四季先輩に近付いて声を掛けると、先輩は曖昧に笑って、ぐいっと私を引き寄せた。
「へっ?」
そんなこと予想だにしていなかった私は当然、無抵抗なわけで。
吸い込まれるようにして、私はぽすんと四季先輩の膝の上へと着地してしまった。
「四季先輩?」
「………ん、」
どうしたんですかと声を掛ければ、先輩はんー、と間延びした返事をひとつして、すーすーと寝息をたてはじめた。相変わらず寝るのがお早いことで。
「せんぱーい、四季せんぱーい」
辛うじて自由な右手を、ぺちぺちと先輩の頬にあてれば、先輩は寝苦しそうに眉をしかめた。しかしこの先輩、綺麗だなあ。髪の毛だけでなく睫毛まで綺麗な白だ。なんて、見惚れながらさらに先輩を起こそうと身をよじると、
「うわあっ」
ぎゅう、と抱き締められて、唯一フリーだった右手も動かすことが不可能となった。なんてこったい。
「………どうしよ」
四季先輩の膝の上に横向きで座っている上、がっちりホールドされているため安易に動けないことを悟った私は、先輩が起きるまでしばらく待つことにした。………一体いつ起きるかわからないけど。
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