vol.09



「梓」

「………」

「梓くーん」

「…………」

「あずにゃん」

「………………」

反応なし。うつむいたまま動かない。さっきからずっとこの調子だ。仕方ないので晴れ渡った空を見上げた。透き通るような空に、見惚れてしまう。ああいい天気だなあ。こういう天気の日は外で食べるのが一番だよね!

ちなみに私を担ぎあげて連行してきた翼は「しまった!満持ってきたのに昼飯忘れたー!」と叫んで走っていってしまった。お昼ご飯は私と梓と翼の分だという。おい本末転倒すぎるだろ。

ぎゅるる、と高鳴る腹を押さえて、溜め息をつく。翼さん早く帰ってきてください翼さん。私の空きっ腹はそろそろ限界ですよ!

「満」

心の中で翼帰還の呪文を唱えていると、急に梓に名前を呼ばれた。ビビった。

「あ、梓?なに、どしたの」

「………………っ」

梓は私を見てから、顔をしかめさせた。え、なに。本当になに。

「………ごめん」

「え、」

梓が頭下げてる…!なになに、梓私に何したのー!?全然思い付かないんだけど!
参ったな、と頭を掻くと、妙にボコッとした触覚。ああこれ今朝の体育のたんこぶか。いやびっくりしたよねあれは。いきなりサッカーボールが先輩のところにビューンと飛んでくるのが視えたから思わず庇って……ん、待てよ?梓が私に謝ってる?…あ…も、もしかし、て、

「あのサッカーボールお前かああああああ!!!」

「そう。だからこうして謝ってるんじゃないか」

「え、反省の色も形も見当たらないんですけど。ていうかさっきのシリアスなんだよ!意味わからん!」

「はいはいごめんごめんご」

「うわあうぜえええええええ!!」




















「で、口論の末取っ組み合いになったのか?」

「………」「………」

もそもそと焼きそばパンを頬張る。うまい。隣では梓が不貞腐れた顔でメロンパンを咀嚼していた。多分私もそんな感じの顔してると思う。
私達の前では翼が呆れながらアンパンを食べていた(翼が呆れるって相当だと思うんだけど)(そしてそんな私達って一体…)

「あずにゃんが悪いんだよ」

「満がバカなだけでしょ」

「なっ、ば、バカじゃないもん!」

「はいはいバカじゃないバカじゃない」

「うぎーーーー!!」

食べかけのパンを放って梓に襲いかかる。が、軽々と避けられて、転びそうになったところを抱き留められた。そしてがっちりホールドされた。

「うぎゃあ!離さんかい!」

「やーだね!」

梓の胸をうぎぎぎ、と押したが全く効果なし。はああうああ女子と男子の力の差あああ。こ、こうなったら…!

「翼助けて!」

「ぬははっぬいぬいさー!」

「あ、」

翼の救出活動によって、私は梓から救われた。……が、

「おい、おかしいだろ」

「ぬ?」

なんで君が私を抱き締めているんだ。後ろから。暑苦しいったらない。あの、翼さん。助けてとは言ったが抱き締めてなんて言ってない。

「ぬー…じゃあ代償ってことで」

「なんのだ」

まあいいか。少し不満気な目で見てくる梓を華麗に無視して、私は再びもそもそと焼きそばパンを頬張った。






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