何もないところで転んだ。
無様だ…。偶然近くに居た男子が手を貸してくれたため立ち上がることはできたが、両膝が絶賛流血中だった。ここから保健室へ行くには遠いので、近くにある購買でバンドエイド買おう。売ってるよねそれぐらい。
スカートに血が付かないように若干持ち上げて購買に行くと、龍之介くんを見掛けた。また甘い物でも買っているのであろう。
真剣にお菓子を選んでいる彼に気付かれないようにバンドエイドがあるであろう一角へ向かって…、
「……咲月」
見つかった。
片手にはもう選んだのかお菓子が握られている。さっきまで真剣な顔してたくせにもう選んだのかお前…早いな…。
「や、龍之介くん」
「む……どうしたんだ?」
「さっき転んじゃって」
ほら、とスカートを持ち上げて傷を見せると、龍之介くんはぎょっと驚いて戸惑っていた。
「あ、大丈夫だよ?」
「いや、しかし…」
「慣れてるか、ら、……え?」
慣れてるから、と言おうとしてひょいと体が浮く。え?もしかして私超能力覚醒?とか思ったけどすぐに馬鹿な考えを捨てて現実を見た。
「りっりりり龍之介くん!!?」
龍之介くんが私をお姫様抱っこして移動していました。なん…だと…!!
「重いでしょ?重いでしょ!!下ろしてー!」
「……だめだ。お前怪我しているじゃないか」
「大丈夫だよこれくらい!!!」
だから下ろしてくれたまえー!!と怒鳴っても無駄でした。あっという間に保健室に着いてしまった。両手が私で塞がっているため足でドアを開ける龍之介くん。器用だな。
「星月先生…は居ないようだな…」
またか…あいつこの前も居なかったぞ…。
私をそっと椅子に座らせて、マキロンとバンドエイドを取り出す龍之介くん。手際いいなあ。
「ごめんね、ありがとう」
「いや、構わん」
消毒が完了して、バンドエイドを貼り付ける。完了。
「なんか龍之介くんお兄ちゃんみたい」
「……お兄ちゃん?」
「それか従兄」
「………………」
めっちゃ微妙な顔された。そうか私と肉親は嫌か。別にいいけどね!泣いてないし!
「………お兄ちゃんより、……がいい」
「え?なんて?」
なんて言ったの龍之介くん。ボソリと呟かれたのでよく聞こえなかった。聞き返してみたのだが龍之介くんは自分の発言に何故か顔を真っ赤にさせると「じ、じゃあ!」と言って去ってしまった。なんなんだあの子は…。
神話科の教室にカバンを取りに帰ると、颯斗くんが居ました。
「あれ、颯斗くん」
「咲月さん」
「何してんの?生徒会?」
「いえ、生徒会の仕事も終わったので帰るところですよ」
「そっかー」
私もそろそろ帰ろうかな。
窓の外を覗き込むと空がオレンジ色に染まりかけていた。
「颯斗くん、私も一緒に帰っていい?」
「もちろんですよ」
「ありがとー」
「それより咲月さん、」
「うい?」
「転んだんですか?足、大丈夫ですか?」
足?と下を見ると両膝にバンドエイド。そういえば転んだんだった。忘れてたわ。
颯斗くんはこんな些細な傷も心配してくれるのか、優しいなあ。思わず笑みがこぼれる。
「大丈夫だよ、颯斗くん」
「……、そうですか?」
「うん、心配してくれてありがとう」
早く帰ろう、とカバンを持ち上げると、そうですねと笑って頷く颯斗くん。
外に出るとちょうど夕陽が沈みかけていて、綺麗だった。星とはまた違う美しさがあっていいよね。最初は不本意ながら受けたこの学校なのに、いつの間にか大好きになっている自分がいることを何故だか嬉しい、と感じた。
← home →