act.20




やることもないし本当に身長を測っていたら閉じていたベッドのカーテンが開いた。星月先生だとばかり思っていたが実は哉太で、彼は目を擦ってから一人身長を測っている私を訝しげに見た。

「なにしてんだ…咲月…」

「身長測ってんの」

見りゃわかるわ、と呟くと、哉太は上履きをはいてこちらに近付いてきた。まだ寝てなくて大丈夫なのか。

哉太は私の身長を見ると、ぶは、と笑った。

「お前小さいなー」

「ナメるな。160はあるわ」

そう、前の女子校では大きい方だったのにこちらは9割男子のため、男子のほうが断然大きいのである。

「哉太哉太、ちょっと屈んで」

「?なんだよ」

「いいからいいから」

疑いつつも素直に屈んでくれる哉太。いい子だなあ、でも私は身長を笑ったことを許さぬ。

「うりゃうりゃっ」

「あっ咲月てめー!」

わしゃわしゃ、と哉太の髪をぐしゃぐしゃにして下ろす。ワックスで固まっているため、結構な力を使わないと下りなかった。

「やめろっつーの!」

「わ、」

わしゃわしゃとしていたら不意に両手首を掴まれた。うわ、哉太の手でかいな。私の手首、余裕で掴めるんだ。

「あっ、…っと悪ィ…」

「哉太、手大きいのね」

「そうか?」

「ちょっと手合わさして」

「いいけど…」

哉太の手と私の手を合わせる。やっぱり哉太の手は大きくて、私の手はすっぽりとおさまった。

「大きい」

「そうだな」

一方的にグッパーグッパーしていると、急に哉太が握ってきた。

「哉太?」

「咲月…」

哉太が私を見つめている。あれ、哉太ってこんなにかっこよかったっけ…?

不思議と哉太から目を離せなくて、少しだけ戸惑っていると、

「哉太、大丈夫かー?」

「仕方ないからお見舞いに来たよ」

「大丈夫?」

ガラリ、と保健室のドアが開いた。
入ってきたのは天文科三人組で、私と哉太の様子を見た瞬間に三人揃って黒いオーラを出したように見えたのは…私だけだったのだろうか。















三人が入ってきた途端ぱっと手を離してダッシュで逃げようとした哉太だったが、まあ出入り口は一つしかないわけで。

出入り口に立っている錫也と羊にしっかりと掴まれると、連行されるように保健室を出ていった。

ぽかんとする私に月子ちゃんが心配したように近付いてくる。

「大丈夫?咲月ちゃん、哉太に何かされてない?」

「や、別に何もー」

なんで哉太連れて行かれたんだろ、とぼんやりと先程の光景を思い返して客観的に見てみると、立ったまま手を繋いで見つめあっている私達。…なるほどこれは怪しい。なんの演技かと思われるのも仕方ない。

しばらくして三人が帰ってきた。哉太はすごく疲れていた。…なんでだ…。どうでもいいけどお腹空いたな。

「はぁ…お腹空いた」

「なんか作ってやろうか?」

「え、マジで!オカン大好き!!!」

がばりと錫也に抱き付いた…と思ったら抱き付いた相手は羊だった。…あれ、さっき少し遠いところにいなかった…?

「羊〜〜!!」

「なに?錫也」

私をぎゅっと抱き締めて錫也を見る羊。錫也は何とも言えないような顔をして羊を見ていた。

「ほらほら、早く食堂行こうよ」

と、自然に私の手を取って歩き出す。

「わ、ま、待ってよ羊!!」

羊に引っ張られるようにして、私は食堂に向かったのでした。










「私…羊くんの動き見えなかった…」

「確か俺の隣に居たはずなんだが…」

「まあ、油断できないってことだよね」

ふふふふふ、と笑いながら錫也は二人のあとを疾風の如き速さで追いかけていった。残された哉太と月子は苦笑しながら食堂に向かったのだった。







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