act.19




ぶらぶら廊下を歩いていると、梓くんと翼くんに出会いました。

「あ、咲月先輩」

「咲月ーーーっ!」

「ここで会ったが百年目えぇぇっ!!!!」

(ブスッ、ザクッ)

「にぎゃあああああああああああ!!!!!」

「せんぱい…出会い頭の翼に鼻フックからの目潰しはエグいですよ…」

「私は忘れていない」

咲月幼児化事件をな。

もんどり打って転がる翼くんを眺めているだけの梓くんも相当だと思うんだけどね。これも従兄弟としての慣れってやつですかね。と思いつつさり気なく右の指をハンカチで拭いた。

未だ鼻と目を抑える翼くんを見やってから梓くんを見る。この二人が授業中以外に一緒にいるなんて珍しいな。

「二人が一緒にいるなんて珍しいね」

「そうですか?偶然ですよ」

「ぬぬーん!俺たち仲良しなのだっ」

「………………………」

「………………………」

「………………………」

温度差を感じる。この従兄弟たち、実は仲良くないんじゃないかってたまに思う。例えば今とか。ていうかいつの間に復活したんだ翼くん。もっと深く差し込めばよかった。

「咲月先輩…それ以上差したらさすがの翼も死にますって」

「何故わかった」

「めっちゃナチュラルに呟いてましたよ」

本当だ。翼くんが顔面蒼白だわ。

「大丈夫だよ、翼くん」

「ぬっ?本当に?」

「うん、次は平手打ちだから」

「にぎゃああああああ!」

「大丈夫だよ、痛くないって」

「と言いつつ素振りをしないで下さいよ…」

梓くんの後ろに隠れてガクガク震える翼くん。嫌だなぁ、次やったら、てことなのに。












結構な被害を与えたにも関わらず、最終的に反省した翼くんは梓くんと笑顔で去っていった。しかしあの従兄弟らの仲はもうちょい縮まらないものなのか…。

「あ、咲月」

「あ?」

特にすることもないので保健室で身長でも測ろうかと保健室に入ると、不知火先輩が居た。自分で何かしているところを見るとどうやら星月先生はいないらしい。またかあの教師。
ていうか今普通に名前呼びされた気がしないでもない。いやいや気のせいかな!

「こんにちは不知火先輩、育毛剤の調子はいかがですか?」

「俺はハゲてねえ!!!!!!!!」

「えっ…」

「やめろそんなシリアスな顔されたら自分で疑っちゃうだろうが」

「疑えばよいよ!」

「てっめ…!!言わせておけば…!!」

がばり、と不知火先輩が私に覆い被さったかと思うと、奴は全力で脇腹をくすぐってきた。くすぐったくて笑いが止まらない。

「ふはっ…や、やめてくださいよ…!!あははは!!」

「うりゃっ」

「や、やだあっ…!!あははは…!!」

「会長」

不知火先輩のくすぐりがエスカレートしようとしたとき、いつ現れたのか颯斗くんがミニ黒板を片手に立っていた。
固まる不知火先輩。にっこり笑う颯斗くん。颯斗くんは私を先輩からはがして後ろに庇うと、爪をたてて思いっきり黒板を掻き鳴らした。

響き渡る地獄の旋律。

颯斗くんの後ろから不知火先輩を覗き込む。先輩は耳を塞いで悶絶していた。どんまい!
冷めた目で不知火先輩を見ていると、いきなり颯斗くんがくるりと私に向き直って「いいですか咲月さん」と、

「男に油断しちゃいけません」

「不知火先輩も?」

「はい」

「颯斗くんは?」

「僕には油断していいです」

「お か し く ね !!?」

あ、会長復活した。
不知火先輩はガバッと起き上がると颯斗くんに詰め寄った。

「俺にも油断してほしい!」

「だめです。あなたは襲うでしょ」

「襲わねーよまだ!」

「まだってなんですか!くだらないこと叫んでないでさっさと仕事してください!」

そう言ってずるずると不知火先輩を引っ張っていく颯斗くん。力持ちだなあ。

「咲月さん。じゃあ、また」

「うん、頑張ってね颯斗くん」

「じゃあな、咲月」

「え?あぁ、そう」

「俺への対応!!!」

パタリと扉が閉まって、途端に静かになる保健室。ていうか保健室って静かにしてなきゃいけないんじゃなかったっけ…?

そういえば襲う襲わない言ってたけどどういうことなんだろう。不知火先輩狩りでもすんのかな。今度月子ちゃんに聞いてみよう。不知火先輩は狩りが趣味なのか。

「……ん?」

そういえばナチュラルに名前で呼ばれてたな…まぁ減るもんじゃないからいいんだけど…。







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