>> 第4章 「さて、李絳攸殿が戦線離脱したわけですが」 「いやぶっちゃけ原因君だからね」 「いやいや大打撃を与えたのは昭可さんですから!」 「……………ぶはっ…」 わお昭可さんまだ笑ってるよ。意外とツボ浅いな。 「うん、でさ、楸瑛。主上をどうやって引っ張りだすかだけどさあ、」 「え?まだやんの?」 「ばっか!おめー今やんないでいつやんのよ!」 「絳攸を連れ戻してからにしようよ」 「…それもそうか」 ていうか主上付き欠けちゃいけないよね。 「おっけ!探しに行こうぜ楸瑛!」 「はいはい」 仕方ない、迷子の申し子絳攸を探しに行くか…。黎深さんに捕まってないといいなあ。 若干祈りつつ、私たちは府庫をあとにした。 パタン、と府庫の扉がしまったのを確認するや否や、本棚の影からふらりと現れたのは彩雲国現国王、紫劉輝だった。劉輝は何故か肩を震わせて笑っていて、時折ぶはっと笑い声を漏らした。 昭可はそれを見てクスクスと笑う。 「会いに行けばよかったのに」 「………………むぅ」 「仲間に入りたそうな顔をなさっていましたよ」 昭可の言葉にえっ!と瞠目する劉輝。そしてすぐに目を伏せた。 「余は…主上付きを付けてもらうほど王にふさわしくない…」 「……主上…………」 しんみりとした空気が府庫を包む。 が、その空気をぶち破ったのは他でもないハイテンション官吏、藤零夜だった。 「うはは忘れ物しちゃったよー」 「って、筆じゃんか!別に忘れてもよくない!?」 「ええ!?よくないよアホ楸瑛!」 「なんでだい?あっまさか思い出の品とかそういう…」 「え?いや、別に」 「……あ…そう…」 「ほらもー、早く迷子探そうよ」 「君が筆忘れたの思い出してなきゃ続けてたよ」 「ま、それはさておき。私さ、思ったんだけど絳攸に迷子紐結んどきゃよくない?」 「零夜、君探すの面倒になったんでしょ」 「当たり。よくわかったね」 「………………」 絶句しながら楸瑛は静かに府庫の扉を開けると、やかましい零夜をさっさと外に出して静かに閉めた。 「楸瑛は…気付いてたみたいだな」 余が、この場にいることを。消え入るような声で呟いた劉輝に、昭可は困惑したように口を開いたが、その口は何を発することもなく閉じられた。 後宮に戻ると呟いて、劉輝は府庫を出ていった。 一人残された昭可は、はあと溜め息をつくと、静かな府庫で誰に言うでもなく呟く。 「絳攸、零夜、楸瑛殿…主上を…頼みましたよ…」 府庫の窓から柔らかな西日が差し込んでいた。 prev//next |