「コスイベじゃなかったのですね…」

あのあと、琥春さんに「え?」という顔をされました。ずっとコスイベだと思っていたのですが、どうやら違うようです。なんとか場を繕おうとして「なんでもないです」と言いましたが未だ信じられません。

「もしかして本物…?」

所謂トリップ、というやつでしょうか。そんなことを考えながら指定された部屋の前に立つ。渡された鍵で部屋を開けようとしたとき、突然隣の部屋から人が出てきました。

「待ってて錫也、今……あ、」

「…………」

二の句が継げない、とはこのことでしょう。
何故なら、隣室から出てきた人は、とてつもなく美少女だったのです。二次元のキャラクターに例えるならそう、夜久月子みたいな。

「こんにちは」

挨拶をすると、彼女はぱっと笑顔になって、こんにちは!と返してくれました。そしてそのまま私に近付き、両手をぎゅっと握ると、

「あ、あの!雲居常葉先輩ですよね。星月先生からお話うかがってます!わ、私、生徒会書記の夜久月子です」

「おや」

綺麗なソプラノで紡がれた言葉に、私は瞠目してしまいました。やひさ、つきこ。あらまあ、トリップって、まさか、本当にあることなのですね。

「1日でダブル折笠ボイスを聞けるとは…」

「え?」

「いえ、なんでもありません。よろしくお願いします、月子ちゃん」

「えっあの、その、敬語は…」

「あ、すみません。これは癖みたいなものなので、気にしないでください」

「は、はい(…颯斗くんみたいだなあ…)」

それにしても、本当に美少女です。さすが、乙女ゲームのヒロイン。やはりヒロインは、こうでないと。

不意に、着信音が響く。月子ちゃんが慌てて手元を見て、携帯を開きました。

「はい、あ、錫也、どうしたの?………あ、そ、そうだった!ごめんなさい!今いく!」

月子ちゃんは見えない電話の相手に頭を下げて、携帯を切った。どうやら用事があるようなので、私はここいらでお暇しますかね。

「では、私は」

失礼しますね、と言おうとした私の言葉は、月子ちゃんの、「常葉先輩も一緒にどうですか?」の言葉に上乗せされてしまいました。

「えっと、何を…?」

「夕飯です!今から幼馴染みたちと一緒に食堂に行くので、先輩も一緒にどうですか?」

「…………」

私はしばし考えたあと、

「では、お邪魔させていただきます」

その言葉に、月子ちゃんは嬉しそうに笑ってくれました。
やはり、美少女は国宝です。素晴らしい。





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