女神の報復
幹部が集まる月に一度の定例会議の時間。
ボスの指示で俺は出席をとることにした。まず我がチームのトップ、ボスである星月琥太郎に、その直属であるアウトゥンノの幹部、陽日直獅と水嶋郁。そしてインヴェルノの俺こと不知火一樹、プリマヴェーラの東月錫也と、エスターテの金久保誉…よし、これで揃ってるな。……ただ一人を除いて。
「揃ってるか、不知火」
「いえ、まだデーアのあいつが…」
「そうか」
すいません…ってなんで俺が謝ってんだ。おい、早く来いよ何やってんのあいつ。
「すいません、遅れましたー」
ドアを開けてのんびりと入ってきた人物に全員が注視する。ボスがやれやれと溜め息を吐き、遅いぞと注意した。
「お前なあ…あれほど遅刻すんなって…」
「すいません、不知火先輩」
俺の小言をさらりと受け流して席に座るのは、デーアの幹部、咲月だ。デーアは諜報部隊で、チームのほとんどは世界各国に身を潜めている。なので、この地にいるのは幹部である咲月だけだった。
「じゃ、始めるぞ」
欠伸混じりの口調でボスが言う。傍に控えていた水嶋先輩が、資料を見ながら退屈そうに本日の議題について説明を始めた。
会議が終わって、皆各々に散っていく。足早に去っていこうとする咲月を、俺は慌てて引き留めた。
「なんですか」
「珍しいな、お前遅刻するなんて」
俺の言葉に咲月はああ、と頷く。
「ベーグル食べてたら遅くなりました」
「ベーグルかよ…」
「まあいいじゃないですか遅刻の1分や2分」
報告書書くの面倒くさくて投げ出す人よりマシですよ、と言われて俺は何も言い返せなくなった。
「颯斗くんが嘆いてましたよー、うちの幹部が報告書を面倒くさがるので僕の仕事が溜まっていきますって」
「うっ…す、すまん颯斗…」
「部下は大切にしないと、裏切られますよ」
「……っ」
突然陰りを帯びた言葉に、俺はハッと顔をあげて、咲月をまじまじと見る。
そして気付いた。
咲月の着ているスーツに、かすかに血痕が付着している。
「お前、これ…」
「………模様です」
気にしないでください、と焦ったように血痕を隠す咲月。
そうか、こいつ。
ベーグルなんか食べていて遅刻したんじゃない。
こいつは裏切った部下を殺していて遅刻をしたのだ。
そしてボスはきっとそれを知っていたのだろう。いつも遅刻しないこいつが、今日に限って遅れるはずがないと思ったら、こういう理由だったのだ。
「……これが私たちの住む世界なんですよ、不知火先輩」
咲月の呟いた言葉に、俺は一種の恐怖を覚えた。そうだ、これが、
これが、俺たちの世界なのだ。
女神の報復
◎とりあえず書いてみた