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「例えばの話をしようか」

「なんだよ急に」

突然咲月が口を開いた。
隣にいる青空が苦笑するのが気配でわかる。俺も呆れた感じで返事をしてみたが、咲月はそんなのお構いなしに話を続けた。

「例えば、私は平安時代の女性だったとする」

「…なんで平安時代?」

「なんとなく。で、平安時代の私は、十二単を身に纏ってあははうふふと笑いながら源氏物語を読むのかしら」

ねえ?と俺の顔を覗き込む咲月。知るかよ、平安時代のお前なんて。
青空がふふ、と笑いながら、

「そうしたら、僕と犬飼君は貴族ですかねえ」

「そうだねえ、多分蹴鞠とかしてるんじゃないかな」

「あとは横笛を奏でたり、ですかね」

ああいいねえ、それ。颯斗くんなら絶対似合うよ、と咲月は少し身を捩りながら青空の意見に賛同した。
蹴鞠したり横笛吹いたり…か。横笛はともかく蹴鞠は楽しそうだな。サッカーに酷似してそうだ。

「確かに、隆文くんに横笛は似合わないね」

俺の心を見透かしたようなタイミングで呟いた咲月に目をまるくしていると、咲月は横笛を奏でている俺でも想像したのかぶふっと吹きだした。

「おーい、咲月。てめ、想像したな?」

「…っふ、し、してないよ…ぶはっ…」

くっくっく、と笑いを堪えるために足をバタつかせる咲月に、青空が「咲月さん、少し抑えてください」と注意した。ざまあみやがれ、咲月め。

「次の例えばの話」

「まだ続くのかよ」

「だめかね」

「いや、だめじゃねーけど…」

随分そのネタ引っ張るな…。こいつホントに暇してるんだなーとぼんやり思った。

「私は普通の女子高生だとする」

「………」

「………」

「女子高生の私は、可愛い制服を身に纏ってあははうふふと笑いながら神話を読んでいるはずだったのかしら」

ねえ、と呟く咲月。その目は笑っていなくて、どこか遠いところを見ていた。遠い遠い、海どころでなく国や時代をも超越するどこか。
黙る俺たちの空気を、青空の着信音が切り裂いた。

「はい」

『青空か。敵のファミリーは不知火たちが抑えた。お前たちは今すぐ組織に帰還しろ』

「了解です。では、戻りますよ、お2人とも」

「おう。戻るぞ、咲月」

「……うん」

指示されたら撃つ予定で構えていた銃をしまう。黒スーツは、相変わらず動きにくい。

「咲月、行くぞ」

「………」

銃を持つ手を眺めていた咲月は、一瞬だけ躊躇ったがすぐに頷いて銃をしまった。黒髪が風で少しなびいた。

「…お前は女子高生じゃない。この国の、マフィアだ」

「…わかってるよ、隆文くん」

私はもう、子供じゃない。そう寂しげに呟いた咲月の顔は、少女ではなく、ちゃんとした女性の顔をしていた。









どうして敵対してるはずの颯斗と犬飼が会話してるのかというとまだ公式から発表されてないときにフライングで書いたものだからです








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