ほらすぐに君に会える
図書館で出会ったオレンジ髪の男子高生。身長が低かったから多分年下かな?…今日も図書館に行ったら会えるかな、なんて考えちゃったりして。
「朔、早くコピーしろ」
「してますよ、うるさいなあ」
いかん、今は生徒会中だった。会長の席に座って書類をパラパラとめくる琥太先輩は、どこか憂いを帯びていてかっこいい。さすが琥太先輩、ファンクラブを所持しているだけある。
「言っておくが俺がファンクラブを創設したんじゃなくて勝手にされたんだからな」
「わかってますよー」
コピーした書類を手渡しながら頷く。
「でも私の姉さんによると『琥太郎もまだまだね、琥春のときはもっとすごかったわよ』って言ってましたよ」
「アイツと比べるな。姉さんは少しおかしいんだ」
心底迷惑そうに顔をしかめる琥太先輩に、私はそれもそうですね、と笑った。確かに琥春さんは少しおかしい。フェロモン的な意味で。
「それより朔、お前またいじめられたりしてないか?」
心配そうに顔を覗きこんでくる琥太先輩に、私は大丈夫ですよと笑って見せた。実は以前、琥太先輩のファンにいじめられたことがあるのだ。琥春さんと私の姉が親友同士であったため、2人が高校生時代の頃、私たちはよくお互いの家で遊んでいた(当時私たちは小学生だった。さすがに今は遊んでない)。そのため、お互い名前で呼びあっていたのだが、その癖が高校で出てしまい、それを見咎めた琥太先輩ファンに私はひどく責められ、イジメに遭ったのだ。たまたまOGとして遊びにきていた琥春さんと、その案内をさせられていた琥太先輩が助けてくれたのだが、いやああのときの琥春さんといったら、
「本当にかっこよかった…!!」
「…………………」
はあ、と溜め息を吐く琥太先輩。
「なんですか」
「いいや、何も」
先輩はふっと笑うと、書類を片付け始めた。
「あれ、もう終わりですか?」
「ああ、今日は少し用事があってな」
用事?……あ、もしかして、
「郁ちゃんと有李ちゃんですか?」
「あいつらの両親、今日帰りが遅いらしいからな、俺が面倒見てやらないとな」
顔を綻ばせて言う先輩の横顔はすっかりお兄さんだ。
「ははあ、琥太先輩も子守り上手になってきましたねえ」
「だろう?」
お前ももう帰っていいぞ、という琥太先輩の言葉にわかりましたと頷いて、私はカバンを持って生徒会室をあとにした。よし、この時間帯ならまだ大丈夫かな。
「居るかなあ」
居たらいいなあ、なんて淡い期待を抱いて、私は愛チャリのペダルをこいで、市立図書館へと向かった。
「(あ、いた)」
ひょっこりと天文学のコーナーを覗いてみると、期待通りオレンジ髪の男子高生がいた。何やら難しそうな本を読んでいる。
「(……邪魔しないほうがいいかな?)」
邪魔しちゃ悪いし、今日はいいか。そう判断して、占星術のコーナーに移動しようとしたとき、
「待って、」
「へ?」
小さな声で呼びかけられた。振り向くと、オレンジ髪の彼が私の顔を見るなりニッと笑う。
「どうも」
「こんにちは」
男子高生は「あ、そうだ」と呟いて慌ててカバンから本を取り出すと、私に手渡した。あの獅子座の本だ。
「これ、」
「あ、どうもどうも」
もう返却は済ませてたんだけど、君以外の人が借りたら困ると思ったから、待ってたんだ、という男子高生。やだ、なんていい子なの…!
「あ、ありがとう!早速借りてくる」
「うん。あ、ねえ」
「はい?」
「このあと、暇?」
暇です。