せわしない愛などいらない





愛だの恋だのバカらしい。
そんなものに現を抜かしているから成績が下がるのだ。異性を相手にするより本を相手にしていたほうがよっぽど有意義である。

「…………」

そう考えた直後、目の端にカップルが映った。

「(……バカらしい)」

ああバカらしいバカらしい。異性と慕いあって何が楽しいんだ?何が嬉しいんだ?何をそんな喜ぶというのか?オレにはわからない。いや、わかりたくもない。

「…………ふん」

恋愛をする意味が見出だせない。なあ、弘樹。お前のお陰で世界は彩りを見せてくれたけれど、

オレにとって恋愛は暗くて遠い世界みたいだ。













市立図書館によって、本を返却した。カウンターのお姉さんはにっこり笑って対応してくれたけど、オレはそれを無視して足早に移動する。

「(もう返されてるかな)」

最近、弘樹の影響で天文学に興味を持つようになった。あいつが身ぶり手振りで話す星の話は、オレを魅了し、惹きつけた。なんて素晴らしいんだろう、星というものは。無限大の空に燦然と輝くそれを眺めては、感嘆した。次第にオレは天文学にのめり込むようになって、最近ではこうして図書館に通い、独学で天文学を学ぶ毎日だ。

「………ない」

今日も、ない。
普段参考にしている文献のシリーズで、いつも獅子座に関する図書だけ借りられているのだ。

「…………」

なんでいつも獅子座だけないんだ。自分の星座でもある分、その書物が読めないことに少なからず不満を覚えていた。早く返されないかな。

「すいません、少しいいですか?」

「え…あ、ああ、すいません」

邪魔をしていたみたいだ。慌ててその場を退くと、女子高生はオレがいた場所にすとんとしゃがみこんで、本を探し始めた。
珍しいな、このコーナーに女子高生なんて。この時間はいつもオレしか居ないんだけど。とそこで、彼女が持っている本を見てオレは思わず声をあげた。

「あっ、獅子座……」

なんと、その女子高生がオレが探し求めていた本を所持していたのである。

「えっ?」

「あ……え、えーと」

思わず上げた声は女子高生にしっかり届いていたようで、彼女はきょとんとした顔でオレを見上げる。ど、どうしよう、何か言わなければ。え、えーと、えーと、

「ほ、星、好きな…んですか?」

なにこれナンパ?それにしたってなんて情けないんだオレ…。
内心へこんでいたが、女子高生はさほど気にならならかったようで「はい!」と元気よく答えた。

「シッ、図書館だから静かにして」

「うあ、すいません」

バッと口元を抑えてもごもご謝る女子高生。いや、謝らなくてもいいんだけど。

「えーと」

自分から話しかけといて口ごもるだなんて失礼千万だ。しかし話の糸口が見つからないのだから致し方ない。どうすればいいわけ。

「あ、えっと、もしかしてこれですか?」

向こうから話しかけてくれた。いい人だ。しかも本題。そう、オレは君が持ってるその本が借りたいんだ。

「ああ、うん、そう」

「よかったらどうぞ」

「え………いいんですか?」

「はい、構いませんよ」

女子高生はにっこり笑ってオレに本を手渡した。その笑顔が眩しくて、オレは少し目を逸らしてその本を受け取った。

「どうもありがとう」

「いいえー」

女子高生は再びにこりと笑うと、じゃあ、と言って貸し出しカウンターの方へ行ってしまった。

「…………」

オレはしばらくその場を動かずぼんやりとしていたが、はっと我に返ると慌てて貸し出しカウンターに向かった。

貸し出しカウンターにはもう彼女はいなくて、若干がっかりしながらオレは獅子座の本がテキパキと手続きされていく様子をぼんやり眺めていた。

「(また会えるかな…)」

知らず知らずの内にそう考えながら。





◎弘樹まだ事故ってないです



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