空中ブランコ
宇宙遊泳中に事故った美月
浮かんだのは妹の顔でもなく弟の顔でもなく、泣き顔を堪える翡翠色の髪をもつ少女の顔だった。
「(おれ、しぬのかな)」
眼前にある、どこまで続いてるかわからない広大な銀河を前にしてそんなことを考えた。徐々に薄まってくる酸素と苦しくなってくる呼吸が、俺の死期を加速させる。
「(宇宙飛行士が宇宙で死ねるなんて本望じゃないか)」
なあ、と自分を鼓舞してみるがどうしても頷けなかった。だって、だって俺は、
大切な人を置いて逝かなければいけないのだ。
「……ゆ……き」
視界が滲む。もうしゃべることもままならない。つらい。でも、これだけは言い遺したい、いや遺さなければいけない。
「こ、ゆ……き、」
ごめんな、ごめん。悲しませてごめん、宇宙バカでごめん、愛してるってたくさん言えなくてごめん、
ずっと傍にいてやれなくて、ごめん。
「あ…い…し、」
滲む視界と銀河が重なった。
「ふざけないで」
たった今、咲月から電話がきた。思わず荒れる言葉に暁月が心配そうに私の肩に手を置くが、私はそれを振り切る。触らないで優しくしないで、誰が悪いとかじゃないってのはわかっているの、でもこの気持ちをどうすればいいのかわからないの。
美月さんが死んだなんて、誰が信じられるというの。
咲月は泣いていた。泣きながら、ごめんねと何度も謝っていた。咲月は何も悪くないというのに。きっと暁月も泣きたいにきまっている。身内が死んで悲しくない者などいない。ましてや敬愛していた兄だ、泣きたくないわけないのだ。
それでも、暁月は泣かずに私を支えている。
「泣くな。泣くと兄さんが悲しむ」
「……っ…」
やめてやめて優しくしないで。
もうどうすればいいのかわからないの。涙もでないの。
「美月さん…」
やっとの言葉で紡いだ言葉は、宙に霧散して消えた。
かなしいお話が書きたかったんだけどね…