君と共に歩む






本日結婚式が催される、とある教会の花嫁の控え室にて。






「うわわあ!く、崩れる…!」

「ふっふっふ、ちゃんとやらないからよ咲月。貸してみ、あたしがやってさしあげよう」

「頼んだよ笑!」

「どれどれ…こんなのこの笑様がちょちょいのちょいっと………あ、」

「あー、崩れたー」

「ちょっと、咲月先輩に笑先輩!なんでわざわざこんなとこでジェンガやってるんですか!」

今日は私の結婚式だというのに先輩方の相変わらずの空気の読めなさに、私は呆れて声をあげた。

「いや、下着姿の満に言われたくないから」

「せーんぱーい!!ドレス決まんないよお!」

…そうなのだ。
たくさんのドレスから厳選してやっと3つまでしぼったはいいが、どれも可愛すぎて私は今日の今日まで決めあぐねていた。ふええどうしようどうしよう…!

「倫ちゃんに聞いたの?」

「『満さんならなんでも似合うよ』って…」

「教会が爆発しますように」

「テロリストですかあなたは」

あーやだやだ、とぼやいて無意味にジェンガを積み上げる咲月先輩を放って、私は再び鏡の前に躍り出た。

鏡の中には貧相な体に下着姿の女性。…わたしだ。

「…………」

ちら、と背後の先輩方を盗み見る。豊満な胸を持つ先輩方の今日のドレスは、胸元が大きく開いているもので、谷間がくっきりはっきりと見えた。

「がー!」

「おお!?どうしたみっちゃん!?」

「あー、いいのいいの、放っとこう」

「あーん!先輩方のばかー!」

おいおいと泣きながら再びドレス選びに専念していると、突然ノック音もなしに控え室のドアが開いた。

「しっつれいしまー…あれ、満まだ着替えてないの?」

「きゃー!なに入ってきてんのよ梓ー!」

「ああ、ごめんごめん」

「こらこら梓くん、もう満がバージンでないとはいえ花嫁姿をいの一番に見ちゃだめでしょー」

「きゃー!なんてこと暴露してんですかせんぱーい!!!」

「まだ下着姿だからセーフですよね」

「ふは!ギリギリね!」

「ギリギリじゃねーよアウトだよー!!!」

ばかー!と叫ぶと、

「木ノ瀬!!何をしている!」

廊下から宮地先輩の声と2人分の足音。恐らく宮地先輩と金久保先輩だろう。
梓はげっ、と嫌そうな顔をすると、

「すみません、僕はこれで失礼しますね。あー、そうそう結婚おめでと、満」

「早くいけよ」

意地悪そうな笑みを浮かべて扉を閉めた梓は、かんかんに怒った宮地先輩に叱られていた。廊下からは『結婚前の女性の控え室に入るとは何事だ!』とか聞こえてくる。ふへっ、ざまあみやがれー!

「で、決まったの満?」

先程からジェンガを組み上げたり崩したりしている咲月先輩が不貞腐れながら聞いてきた。

「ま、まだです…」

「早くしなさいよ。今小熊くんからメール来たよ」

「えっなんて!?」

「『新郎、準備万端です!』って」

「ひええええー!」

どうしようどうしよう!

「先輩どうしようー!」

うえうえ、と涙目で咲月先輩にすがりつくと、先輩は冷淡な表情で「あんたほんっと胸ないわねー」と呟いた。

「うわああああああ今はそんなこといってる場合じゃない!!!」

どれにしよう!?と3種類のドレスを抱えて慌てふためいてると、咲月先輩がやれやれと呆れ顔で私からクリーム色のウェディングドレスを取り上げて、私に放った。

「はいはい。もーこれでいいよ!はい着て!笑、アイロンは!?」

「あったまってるよん」

「おっけ!ようし早く着ろ花嫁!」

「う、え、あ…」

いきなりてきぱきと支度を始めた先輩方に翻弄されながら着替える。もさもさとしたウェディングドレスを着て先輩方の前に出ると、2人は笑顔で綺麗だよ、と誉めてくれた。ふふふ、嬉しい。

「ほらほら満お姫様、最後の仕上げよ!」

笑先輩がにんまりと笑ってヘアアイロンと綺麗な髪飾りを取り出した。ようし、待っててね!りんたろーくん!



刧刧



俺の準備は整った。が、花嫁はまだらしい。先程様子を見に来た木ノ瀬君が「満はまだ着替えてなかったよ」とわざわざ伝えに来てくれた。木ノ瀬君いい人だなあ。もし俺が誤って花嫁の控え室に入っちゃったりしたら笑ちゃんや咲月ちゃんにボコられるに決まってる。

「(あれ、でもなんで満さんが着替えてなかったってわかるんだ?)」

もしかして入った?……いやいや、きっと扉越しに様子を聞いたに違いない。いくら木ノ瀬君だってそこまで失礼な男じゃないよね。

「…………」

たぶんね。

若干木ノ瀬君との友情関係を疑いかけたとき、後ろから愛しい人の声を聞いた。

「りんたろーくん!」

俺はすぐさまぱっと振り向く。視界にはクリーム色のウェディングドレスを着て、もたもたとこちらに向かってくる普段より何倍も綺麗で可愛い満さん。

「満さん!」

「うはは!みてみてウェディングドレス!」

自身のウェディングドレスを翻してはしゃぐ満さんに、キュンとなって、俺は満さんを引き寄せるとキスをした。

「り、んたろ…くん…!」

まだ早いよ!と言う満さんに軽く微笑んで、俺は再び唇を重ねた。


















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