雨は嫌いだ。
靴は濡れるし傘は邪魔だし、いいことなんてひとつもない。だから梅雨は憂鬱だ。
「俺は雨好きだけどなー」
そうぼやく暁月を私はジト目で見た。なんだって双子なのにこうも違うのか。いや、双子だからこそ違うのかもしれない。睨む対象を双子の兄から窓の外で降り続く雨に変えた。降りやみそうにない雨に思わず漏れる溜め息。
「雨だと星が見れないじゃない」
「あー、それは俺も嫌だな」
「でしょ?」
翼くんに頼んで雨雲を離散させるミサイルでも開発してもらおうかな、と半ば本気で考えていると暁月が「でもさ、」と声をあげた。
「何よ」
「梅雨じゃなきゃ楽しめないものもあるだろ?」
「……ある?」
んなもんねえよ、と言おうとしたとき、玄関から美月兄さんの「ただいまー」という声。心なしか声が少し弾んでいる気がする。何かいいことあったのかしらと首を傾げると、
「咲月、暁月これ見ろ!さっきそこのおばさんに紫陽花もらった!」
大量に紫陽花の花束を抱えた兄さんが嬉しそうにリビングのドアを開けた。梅雨といったらやっぱり紫陽花だよなーと兄さんは笑うと、生けるためにダイニングへと消えていく。
「な?」
「………」
あるだろ?と言わんばかりの笑みを浮かべた兄を少しだけ睨んでから、雨を見た。
「………」
なんとなくだが、先程よりは雨が嫌いでなくなっていた。
情緒を大切にする兄弟
なんで寮生活なのに実家にいるのかはスルーで
120515