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目についたからだと思う。ホームページの中の数あるコメントでそれは確かに自分の目にははっきり写ったのだ。別にそのコメントが奇抜だったりするわけじゃない。ただ、それがまるで自分の中にストンと嚥下されて行ってしまった。だから、僕は無意識のままでカタカタとキーボードを叩いて返事をした。


『僕もあなたとなら死んでも良いです、奈倉さん。』


僕、竜ヶ峰帝人は簡単に言えば自殺願望がある。なぜ?と問われれば、さぁ?と答えるしか無いのだけれど、とにかく僕は死にたかったのだ。別に来世に希望を託すとか、この世に絶望したとか、そんなんじゃない。ただ、死にたいのだ。気づいたら僕の中に生まれていたその気持ちに反抗することもなく、なすがまま考えていたのだ。死ぬことについて。だとしても、死に方にだっていろいろある。人に迷惑をかける程のやり方で死にたい訳じゃない。誰かに殺されたらその人に迷惑がかかるだろう。僕は特に問題無いけど、殺してしまった人が一生苛まれるなんてのは僕の中の良心が疼いて申し訳なくなる。だから、人に殺されるってのは無しだ。かといって、自殺はどうだ。それも迷惑だろう。後処理をした後に僕が住んでいた場所が酷く曰く付きの場所になり、不動産業者や家主に迷惑がかかる。じゃあ、やっぱり誰かに殺して貰った方がいい。最初に自分の許可があって殺したとビデオカメラか何かで撮影して証拠とすればいい。もしくは、一緒に死んでくれる人を探すか、だ。そこで、僕はインターネットで自殺オフを呼び掛けるサイトの書き込みを上から確認していく。その中だ、奈倉という名前の書き込みに惹かれたのは。ただ一言、死にたいという文字が書かれていた。返事は二日後、返ってきた。メールアドレスの交換を経て、場所を指定された。奈倉さんは7つ程年上の大人で男性らしい。指定場所は来良総合病院の東棟屋上。ビュンビュンと風が吹き付ければ、もうすぐ時間になる。学生服姿でフェンス越しに立っていれば後ろから声がかけられる。振り向けば、薄っぺらい笑みを浮かべた眉目秀麗を具現化したような人物がそこにいた。


「君が田中太郎くん?はじめまして、奈倉です。」

「……はじめまして、奈倉さん。」


まじまじとその姿を見れば、くすりと笑われてこちらを見た。ゆっくりと近づいてきた奈倉さんは僕のことを面白おかしそうに眺めながら口を開いた。


「ああ、やっぱり意外だった?」

「……はい。」


なんとなくそんな気はしていた。病院を指定場所にするくらいだ、医者か看護士か事務の人か、それか…、


「だよねー、普通の人はこのままでもどうせ直ぐに死ぬのになんでわざわざ死にたいの?とか思うよね。」


口を開ければ、意外と社交的に接する奈倉さんは患者さんが着るような病院着を着ていた。その袖から見える腕や足や首や顔は白く、全身はあまりにも細かった。どう見ても健康な人のそれでは無かった。パンパンと手を払って腰の後ろの方に手を回した奈倉さんは銃刀法違反に引っかかるようにしか見えない銃を取り出した。モデルガンじゃないよ?すごく重いんだよね、これ。と僕に渡してきた。そのまま僕の方に歩いてきたかと思えば、そのままフェンスまでたどり着き、背を預けて話し始めた。


「さて、田中太郎くん。君は天国を信じるかい?」

「天国…ですか?」

「そう、天国。ほら、よくあるじゃない。絵本とかで天使が迎えに来てくれて、天国に連れて行く、とかさ。ああ、絵画の方でもいいよ。多くの人が天国のイメージを描き出しているしね。で、田中太郎くんは天国を信じる?」


興味深く聞いてくるような目に真面目に考えてみたものの、やはり信じるか、信じないかの結論など出なかった。


「どちらでもいいです。天国が無くても、あっても。ただ、僕はそれを受け入れるだけです。真面目に考えた結果ですから、怒らないで下さい。すみません。」


そう言って、申し訳無さそうに謝れば一瞬ポカンとした顔になった奈倉さんがいて、僕は存外、悪いことをしてしまったのかもしれないと思い、何とかこの場を収めようと奈倉さんの方に向き直したら笑いをこらえるように肩を震わせている奈倉さんがいた。


「あっはははは!!もう…!ははは…けほけほっ!ふふっ…あはは…!」

「奈、倉さん?」


こらえきれなくなったのかずいぶんと盛大に笑われた。満足したのか奈倉さんはこちらに寄ってきた。


「どうしようかな…。俺は今まで自殺しようとする人を引き止める程善良な人間じゃなかったのにな。君を殺してしまうのが勿体無いなぁ…、竜ヶ峰帝人くん。」


あれ、今、名前…?いや、もうどうでもいいか。どうせ死ぬんだし。奈倉さんはそれでも先ほどと顔色を変えずに僕にやっぱり銃を返してくれないかな、とにこりと笑って促してきた。もちろん、僕にはそんな気が無かった。奈倉さんも死にたいのに僕だけ死なせたくないなどとは卑怯だ。面倒くさくて僕からやろうとゴリ、と側頭部に銃を押さえつけて構えた。


「言っておくけど、君が死んでも俺は死なないよ。」

「約束、破るんですか?」

「そういうことになるのかな。」

「じゃあ、死ねませんね。今、この場で僕だけ死ねば奈倉さんが疑われる。疑われなくても奈倉さんは病人ですし、体調を崩されてしまうかもしれませんし。何より僕が人に迷惑をかけて死にたく無いんです。」


そうして銃を下げれば、奈倉さんは返して、とまたにこりとした笑みを含めて言ってきた。僕はそれに応えるように差し出された両手に銃を置いた。


「僕も何かの病気だったら良かったのにな…。」

「それは俺に対する嫌味かい?ま、あと半年くらいすればぽっくり逝っちゃうけどね。ああ、ぽっくりは無理かもなぁ。割と苦しんで死ぬと思うよ。ベッドの上でね、心電図とか人工呼吸器とか点滴とか付けられて、注射とかされてさ。最初に言っておくよ。俺は君と違って死ぬのが怖い。だからこそ君がなんでそんなに死にたいのか興味がある。俺に協力してくれはしないかい?半年間、ただ話をしてくれればそれでいいから。その後、俺が死んだら君も死んでいいからさ。」


不敵に微笑む彼がなんだか無性にイラついた。その筈なのに僕はそのお願いを承諾したのだ。何でって、彼は僕との約束をなんだかんだで破っていないから。約束は、一緒に死ぬこと。場所は来良総合病院だということ。どちらが先に死んでも構わないこと。つまり、死ぬ時期の指定など最初からしていなかったのだ。彼が約束を破っていないのに僕が破るわけにはいかない。


「良かったよ、竜ヶ峰くん。それ来良学園の制服だよね。だとすると、君は俺の後輩になるのかな。」

「そうですね。えーと、そう言えばお名前はなんて言うんですか?まさか奈倉じゃ無いですよね。」

「ああ、はい。」


左手を差し出されるとそこに病室ナンバーと入院している科の名称、そしてカタカナでオリハライザヤと書かれていた。







2010,06,08

1話。

またパロです。
需要が無さそうなお話で申し訳無い。
しかし、書きたくて初めてしまったからしょうがない。
今のところ、帝+臨のつもりですが、もしかしたら帝臨になるかもしれません。CP要素は薄い気がしますが…。
自殺願望者帝人+(×)余命半年の臨也な話です。







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