「恋が切ないよ、助けてシズちゃん。」

「バカ言ってんじゃねえ。」


ゴツンと額を叩かれて、痛いと言えば溜め息つかれてしまう。いつもと同じように何気ないように言えば、シズちゃんも同じように軽い調子で返す。シズちゃんは知らない癖に。俺だけが知ってて他のやつが知らないことたくさんあるのに言えない。シズちゃんのタバコはメンソールライトだとか寝つきは良い癖に寝起きは非常に悪いとか小動物が好きとか甘党とか。


「つうかよぉ…、あー…、お前さ、なんかあったのかよ。妙にいつもと違って心ぱ…いや…!調子が狂っちまうじゃねぇか…。」

「別に…、何でも無いし…。」


何だろう。
このもやもや、嫌だ…な…。こうやって無駄に優しくされると変に期待してしまう。そんな風に誰にでも優しいのはきっとみんな知っているのだろう。だからいつの間にか人に囲まれて、いつの間にか俺の愛する人に溢れて俺は1人どんどん離れて行く。自ら願っているわけではない。むしろ俺が人間を愛する分、人間も俺を愛するべきだと思う。
考え込んでいたら、近づいて来たシズちゃんに頭を触られた。


「触るな…!」

「おい、いーざーやくーん?人がわざわざ心配してやってんのにそれはねえんじゃねえの?」

「うっさいよ、早く死んでよ、シズちゃん。」

「そうか、そうか、死にたいなら早く言えよな。俺が綺麗に殺してやるのに、よぉ!」


メキメキと俺が座っている公園のベンチを持ち上げ始めた。相変わらずシズちゃんは人間じゃないなぁ。あれ?シズちゃんの顔が近い。あぁ、シズちゃんの顔が俺とおんなじくらいの位置に来たんだ。ふーん。ちゅ。あ、落ちた。


「臨也…、てめぇ…。」


やってしまった行動に気づく。うわ、俺バカみたい。走る、走る、息が切れそうになるまで。もうどれくらい走ったかわからない。体が痛い。どこに向かって走ったかさえわからない。路地に座り込む。睡眠不足な頭がガンガンする。シズちゃんの所為だ。シズちゃんが心配してる、とかそんな無駄なこと言うから、やだよ、俺はそんな優しいシズちゃんなんかイヤだよ。友達とかそんなお笑い草な関係じゃ全く無いし、好意的な知り合いでも無いのに気持ちを伝えられる訳が無いだろ。化け物の癖にたくさんの人に今の君に俺がそんなこと出来る訳が無い。だから、変わらないこのままで俺はそれが一番幸せだと思っていた筈なのに。それが嫌だなんて、それこそただのバカだ。


「戻りたいなぁ…なんて。」


路地の壁に言葉が薄く反響する。今の気持ちで会ったのならば俺はシズちゃんの内側の人間でいられたかもしれない。うっわ、俺、女々しい。有り得ない。自分から外側を望んでいた癖に。息が上がったまま小さく目を閉じるとシズちゃんが出てきてなんか笑った。人の瞼の裏まで占領しやがって。


「シズちゃん、愛してる。シズちゃん、ラーブ。」


誰もいないことを良いことに出来るだけ笑って言ってみる。空に吸い込まれるように消えて言った言葉にさようなら。
大丈夫、いつもの笑いになっている。


「もう一度、言え。」

「は!?え、嘘…、」


嘘だ、いくら何でも早すぎる。と言うより、シズちゃんなんか俺を見失う筈なのに。なんで今日は見つけてるんだよ。逃げたい、足が動かない。口も動かない。ただ空気の出し入れをしてるだけ。シズちゃんが必死に走って来た様子がわかる。なんで。俺さえどうやってここまでたどり着いたかわかんないのに。


「臨也、もう一度言ってみろ。」


ビクリとその言葉に反応すれば先ほど言った言葉が頭を渦巻く。やだやだやだ、言える訳無い。言ったら終わる。そんなのわかりきっていること。怖いよ、シズちゃん。何か口に出そうとも出てくるのは空気だけ。ひゅうと喉が鳴ってそれで終わり。

シズちゃんが一歩ずつ近づいて来る。そのままシズちゃんに触れられる。触らないでよ、触るな。さっきは言えたのにそんなことさえ言えなかった。シズちゃんの手が背中に絡まって、シズちゃんの顔が俺の顔の隣にある。


「愛してる。」


それは一体誰を?
俺をなんてバカなことは言わない。シズちゃんが俺に愛してる、なんてきっと死んでも言わないだろうから。大丈夫、まだ笑える。笑い飛ばして、シズちゃんの人生の汚点にしていろんな奴に流してやる。


「臨也、好きだ。」

耳を支配する6文字。"いざや"と"すきだ"が耳に入る。止めて、よ、シズちゃん。冗談に出来ない、笑えない。涙腺が陥落する。ぼたぼたと落ちるそれは俺の声をも復活させる。

「シズちゃ…、あいしてる…。」


ぎゅうう、とシズちゃんの背中を思い切り握り返す。シズちゃんはただそんな俺を先ほどよりほんの少しだけ力を込めて抱き締めた。



アイシテル、なんて言ったら俺は素敵で無敵な情報屋さんの作り笑いなんて出来る訳が無いのに。こんなに近くにいたのに言えなかった言葉は青い空ではなくて君の中に溶けて落ちていった。






【こんなに近くで】


(ほら、立てるか?)(当たり前…だろ。)(そっか、……ちゅ。)(……っ!?シズちゃん!?)(さっきのお返しだ。)







2010,05,23


こんなに近くで/CrystalKay

林檎さん、素敵なリクエストありがとうございました^^

静雄には臨也レーダーがありますからどこに逃げても追いかけられるんですね、わかります。

曲のリクエスト貰った時から何これ!切ない!シズイザラブ!という気持ちが募りました!素敵な曲を教えていただきありがとうございます!












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