02(全3話予定)



そんなの全てわかりきっていたことなのに、少しでも期待して浮かれていた自分が馬鹿みたいだった。愛を孕む特権を持つのは女性だけである筈なのに。




無条件幸福02




無機質に流れていく感情たち。区役所から貰ってきたと思われる紙に水滴が零れ落ちた。本当、嫌だな。何が嫌かってこれに満足が出来ない自分にだ。女に生まれたかったかと言えば、違うと答える。シズちゃんが女だったら良かったのに、なんて考えは論外だ。そんなのいくらなんでも最低な奴の考え方だ。


「臨也…?どうした?」

「ん…、何でも無いよ。」


酷く滑稽な行為をしている、と冷静過ぎる頭を呪う。心配そうにこちらを見るシズちゃんをやはりおかしそうに眺める自分がいた。
思えば、俺がシズちゃんを好きになったのもこんな一面からだったからかもしれない、と昔を回想する。






「いーざーやくんよぉ?人の視界に入ってくんなっつってんだろう?」

「やだなぁ、シズちゃん。同じクラスなのに俺がシズちゃんの視界に入らないようにするなんて難しいことだよ!さらに言えば何かの陰謀かシズちゃんの席は俺の後ろ!嫌でも目に入るね!だからシズちゃんの注文には答えられないかなぁ。あとね、今授業中だよ?」


そうニコリとしてシズちゃんに返せば、いつもここでぶちキレるシズちゃんがいる。今日は何の因果か担当の先生が俺に当てた。あー、今日、教科書持ってないんだよね…。あの教師、クビに追いやってやろうかな…。なんてことを考えていたらツンツンと後ろから何か叩かかれて、まだ何かシズちゃんあるのかと振り向けば、差し出される教科書。


「ん…。」

「え、ああ…、ありがと…。」


成すがままに受け取って教科書を読んでシズちゃんに返したあたりで気づいた。俺、今、普通にお礼言っちゃった…?てか、なんでシズちゃんが貸してくれた訳…?え、どうしよう。気になるのに、怖くて後ろが振り向けないとか終わってる。前から2番目の微妙な位置の席でノートを開いて俯くことに徹した俺は明らかにシズちゃんの無意識な行動に弱かった。シズちゃんは天然タラシ過ぎる。どくんどくん、と今じゃ古い心臓の効果音が最適じゃないのかと言うくらい俺は無事じゃなかった。こんなことが積み重なれば俗に言う、所謂ギャップ萌えなんじゃ無いのかと思いもし、見事にシズちゃんに落ちていた。…いや、落ちていたと気づいたのがこの時だったりするから実際はいつから、なんてのはわからない。とりあえず、俺は平和島静雄が好きという気持ちを押さえ込もうと必死だった。余裕なフリをしてシズちゃんを騙して嵌めては押さえ込んでいた逆側の折原臨也が涙を流す。そんな矛盾した行動を誰にも気付かれないようにこなして来たのだ。全く、俺はそこら辺の大根俳優の百倍くらい凄いんじゃないか、と渇いた笑いを響かせた。


「あのな…、臨也。法律がどうとか、性別がどうとか、そんなもんじゃ計り知れねえくらいのもんなんだと何で気づかねえ。いつもは無駄に勘だけは鋭い癖によぉ。お前は知らないかも知んねえけどな、お前はいつもギリギリで自分を突き放す行為を止めてきた。それでも、それを超えちまったのはただ1回のお前が警察に俺を嵌めた時くらいだ。だが、俺は違う。事あるごとにお前を身体的に傷つけた。気付いたんだ、本当に唐突かも知れねえがお前にある無数の傷のいくらかは俺が付けて、俺が残したものじゃ無いのかって。」


俺のそれに反応したのかシズちゃんはタバコを吸おうと出したライターを1回引っ込め、ひたすら淡々とシズちゃんらしくなく饒舌に、それでいて真面目で真っ直ぐこっちを向いて話した。


「そう考えたら、急に、ああ、俺、本当はこいつのこと大切にしなきゃいけないんじゃないか、という思いが生まれた。最初はただ単にその思いに寒気がした、吐き気がした。その癖に頭を離れねえんだ。そしたら今までのお前の余裕な笑いとか全部切羽詰まったものに見えて来て、でもやっぱりそれはただの俺の杞憂で中身はただの最悪な折原臨也か、とも思った。だけど、面倒くさくなった。ここでまた、裏切られたのなら次こそ息の根を止めればいいと思っただけだ。そして今更だがもう1度言う、俺はお前を好きなんだ。」


そう言い放ってすっきりしたのかシズちゃんは満足した顔を見せてこっちを見ている。伸ばされた手が頭にくっ付いて撫でる。ああ、もう、全く…、


「シズちゃんって…、ずるいよね…。」

「…そうかもな。」

「そう…だよ…。ほんと、世界一ずるいよ…。」

「ああ…、悪いな…。」


ぽたり、ぽたりだった筈のそれは見事なまでに土砂降りになり地面を湿らせた。渇いた筈の笑いは今や潤いに満ちたそれ、となる。


「シズちゃん…、好き…、好きだよ、シズちゃん。シズちゃんが気づくよりずっとずっと…、ずっと前からシズちゃんが好きだよ…。」

「ああ…、俺も好きだ…。だから泣き止め…、泣かれると…、その…困る…。」


涙でぐしゃぐしゃな顔を見られたとか最悪、なんていう風に普段の自分なら思う筈だ。だけどもうそんなことこの時は考えていなくて必死に袖で拭った。

そして、驚くくらいシズちゃんは暖かかった。





無条件幸福 02




(なぁ…、この連帯保証人みたいな欄どうすんだ?)(ぐす…、ドタチンに頼めばすぐ…だよ…。)


その婚約届はどうにかなる訳でも無いけれど、とりあえずもう1人の腐れ縁に提出すればいいと解決した。





2010,04,23

2話。
シリアスに結局出来なかった^p^
シズちゃんがベラベラ喋るというやはりキャラが違うシズちゃん。
最近、臨也さんの泣き率が高いなーと思います。










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