(上)の続き。
そちらからお読み下さい。



その日は朝から嫌な予感がした。目覚まし時計が何故だか鳴らずに余裕を持てる様な朝では無く必死に準備をして、仕事場に向かって走った。ともすると、急に後ろからバイクに跳ねられた。跳ねたバイクの人には凄く心配されたけど、正直バイクの人の方が心配で病院に連れて行こうとトムさんに電話をかけた時だった。多分位置が悪かった。電気屋の前にはテレビが立ち並んでいる。


「次のニュースです。昨日深夜2時頃池袋西口公園付近で新宿在住の会社員の折原臨也さん(23)が何者かに刺され、出血多量により死亡しました。折原さんは…、」


耳を疑った。
俺の知る限り新宿在住の折原臨也は1人しかいない。そうで無かったらと思った筈なのに記された漢字で書かれた臨也が妙にリアルで頭では理解しているのに反応が出来なかった。受話器の向こうから聞こえてきたトムさんの声に固まった意識が戻って来た。


「静雄か!?お前今日は事務所くるな!お前が折原臨也を殺したって噂で持ちきりだ。悪いことは言わねえから大人しく家に居ろ!わかったな!」

「や、もう外に…、」


平和島静雄だ…!
名前を叫ばれて振り返れば既に慣れた怯えた目を向けられた。
あいつが殺したんだってよ、いつも暴れていたからついに殺っちまったんだな、こえーよ、近づきたくねえよ、あのバイクのやつかわいそうだろ、誰かなんとかしてやろよ、無理だろ、殺人犯だろ。

こそこそ言ってるみてーだが聞こえてんだよ。俺は殺人犯なんかじゃねえ。そう思いながらバイクの人の元に行けば逃げられる始末だ。引きつった声で謝られる。別にそんな態度を強要してる訳じゃない。居心地が悪くて自分が悪い訳じゃないのにその場から逃げてしまった。ああくそ、これじゃ昔のまんまじゃねえか。人を信じられない、信じたくないなんて思いがぶり返す。


「おい、あいつ平和島静雄だぜ。あいつ警察に突き出せば金貰えるんじゃねー?」

「ははっ!しゃれー金とかそんなんか?悪い話じゃねーな。ほら、こんだけ人数もいるし?」


逃げた路地裏に大勢のガラの悪そうな奴ら。イラついた、もしかしたら今回こそ人を殺しそうな気がしたのに臨也が泣くような気がして握りしめた拳を解いた。ああ、そうか逆にここで俺が殺されれば俺をまた1人の人間として愛してくれるんじゃ無いかと馬鹿らしい考えが浮かぶ。振り被られたナイフを避ける気は無かった。残念だが刺さんねえよ、くそやろう。首切られたら死ぬかもしれないけどな。

キィンと金属が重なり合う音がして見慣れた筈のここにいるはずが、むしろ存在する筈の無い奴が立っていて目を疑った。


「……っ何やってんのさ!ぼさっと立ってないで早く動いて!」

「え、あ、お、おう。」


名前を呼ぶはずが何も出来なくてとりあえず言われた通りによくわかんないやつを右側から蹴り飛ばした。それを見たその他大勢の奴らの一部が逃げ出したせいで集団は破壊された。追いかけるつもりは毛頭無かったものの目の前の黒髪に大声で早く追って、これぶんなげて!と言われたので、つい返事をして思い切りぶんなげたら爆発したせいで勢いよく後ろを振り向いた。


「大丈夫、あれただの発光弾。目眩ましだから。」


スタスタと俺の前を通り過ぎて先ほどの奴らの1人の中に何かを言ったと思ったらいつもの調子でこちらに戻って来た。


「お、お前、死んだんじゃ…、」

「ちゃんと触れるよ?ちょっとね…、問題が発生してさ…。そうせざるを得なかったというか…。それよりも本当にシズちゃんは俺がいないとダメだねえ…。おかげで簡単に俺、死ねないね!」


笑顔で笑うと俺に抱きついた。こんなこと普段はしてこない奴だから反応に困ったけれど、とりあえず抱きしめてみた。あったかくて心地よかった。左半分に感じる熱が思ったよりも熱くて不思議に思いながらも抱きしめ続けた。


「ここに俺がいるからシズちゃんに問題はもう何も無い?」

「……無い…と思う…。」

「無いよね!!」


はっきりと無いと言わせたいのか口調を強めて言うので、無い、と俺も答える。


「じゃ、良かった…。」

「っ!?おい!?臨也!?」


ずるずると崩れ落ちていく臨也を支えればぬるりとした感触がして手を見れば赤い血。ニュースの内容がフラッシュバックする。「刺されて出血多量」このバカ!刺されたのは事実なのかよ!


「おいこら!簡単に死ねないんじゃ無かったのか!俺の了承を得ずに勝手に死にかけてんじゃねえよ!…っ!俺の為に生きろ!聞いてんのか!」

「あはは…、シズちゃん。何それ告白?」

「そうだ…!悪いかよ!お前を一生幸せにしてやる!そうすれば俺も幸せだ!幸福だ!文句あっか!」


言い放てば、一瞬驚いた顔をした臨也が直ぐに顔を赤くしてバカでしょ、と小さく言ったのは聞こえなかったフリをした。大して重くない体を背負うとぎゅっと腕に力を入れられた。背中の方に臨也が生きてる証である鼓動を感じる。それがまるで俺の全身を脈打つ流れを助けるようだった。


「シズちゃん…、生きててなきゃあダメだよ?俺が君に構えなくなるじゃあない。俺が愛する人間の1人じゃない、ただのシズちゃんを愛してあげるのはシズちゃんに愛して欲しいからだよ。」



何よりもこいつにはかなわねえな、と理解するのは嫌だったが確かに俺は臨也にはこれから先も勝てないくらいの愛を贈られるらしい。
俺を変えるきっかけとなったこいつはもういない。
けど、これからは違う関係として俺も臨也に愛を与え続けるさ。そう心の中で思えば早く行きなよ、とつつかれた。





【有心論】



(ああ!臨也!どこに行ってたのさ!絶対安静だって言ったのに!)(ああ、ごめんごめん。ちょっと虫の知らせでね。)(おい新羅!このバカを頼む。)(臨也さん、ダラーズの方でニュースの手配直しておきました。)






2010,04,17



有心論/RADWIMPS

最後まで死ネタにするか迷いました。
でも結局止めました。
人間不信者静雄×人間信者臨也

俺は人間が好きだ!愛してる!それなのに君はそれに入らない!実に悔しい!俺は君を愛せなかったのに君は俺に愛して欲しかった!俺に愛して欲しいならと言っただけで君は俺を愛した!そうしたら不思議と俺も君を愛してしまった!やっぱり俺は君を特別に愛していたのを否定したかっただけだったんだ!


宮田さん、リクエストありがとうございました!拙くてすみません…!










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