05


「イザヤ、」

「……シズちゃん、早かったね。」


名前を呼ばれてびくりと動いたイザヤがこっちを向いた。腫れた目が痛々しく見える。そういえば、幽霊って涙が流れるんだな。それはまるで生きてないのに涙が流れるのはロボットのようじゃないと言っているようだった。完全にさっきは疑問に思わなかった自分を不思議に思った。


「てめえ、壁抜け出来ねえとか嘘じゃねえか!」


とりあえず、嘘つかれたことを腹立たしく思っていたので素直にぶつけてみたら笑われた。どっかのネジが外れたかのごとくにゲラゲラと笑い始めた。


「あははははっ!ひぃ…!やだも…!シズちゃん、そんなこと覚えてたの?」

「ああ?お前の言ったこと直ぐに忘れる訳ねえだろ。」

そう言ったら急に笑いが止まり、顔を赤くしたイザヤがいた。は?なんだこいつ。俺何かおかしなこと言ったか?


「シズちゃんてさ、結構平気でそう言うこと言うよね。あとさ、俺が出来ないって言ったのドア抜けだから壁抜けは論外だよね?」

「そう言うの屁理屈って言うんだぜ、イザヤ。」


ひとしきり笑ったイザヤはいつものように浮かんで近づいてくるでもなく地面を歩いてこちらに寄ってきた。


「シズちゃんはさ、何でさっきキスしようとしたの?」


問いただすような目で見られた。それは確かに当たり前のことだ。今朝方の出来事を考慮すれば俺がイザヤにキスをする理由なんて全く無いはずだ。けれど、実際しそうになったのに違いは無い。俺が答えを渋ると寄り近づいて来たイザヤに気づかず、イザヤ?と言おうとした瞬間には既に口は塞がれていて言葉を発することが出来なかった。


「俺さ、トチ狂ったのかもしれない。でも今まで感じたことのない感情をシズちゃんに向けてるのは確かなんだ…。さっきはがっついた表情したシズちゃんが怖くて逃げちゃったけど、もう逃げないから。だから、シズちゃんを特別に好き。人、ラブじゃない方の好きだよ?シズちゃん。」


ぽかんとイザヤを見てしまっていた。でも俺の中で煮えたぎった熱い感情はまるで今が好機だとばかりに破裂した。これは、一目惚れなのだろうか。その筈なのに既視感が漂う理由がわからない。頭が理解したことは初めて成就した恋がまさかの男でさらに言うならば幽霊だと言うことだ。


「俺も…好きだ…、イザヤ。」


そうやって抱きしめるとさらになんだか既視感を覚えた。ふと、タイミングが悪いことに携帯が鳴り響いた。くそ、どこのどいつだ、馬鹿やろう。イザヤが出ていいよって言ったから少し離れた路地に行き、名前を確認すると岸谷新羅と示されていて、早すぎだろと今度ばかりはダチに愚痴を吐いた。


「もしもし、静雄?」

「なんだ、やけに早いじゃねえか。」

「私を舐めないで欲しいなぁ。僕はこれでもいろいろ顔は広いからね。」

「それで結果はどうだったんだよ。」

「イザヤ、と言う名前の学生は確かにいたよ。」

「…!?本当か?」

「…折原臨也。現来良学園、旧来神学園の学生だった。正確には僕達と同じ世代だから同い年になるね。高1の時、留年してそのまま退学してる。原因は出席日数と当時の教師を脅迫による自殺未遂に追い込んだこと。」


驚愕の事実が降りてきて、それは別のイザヤじゃないのか?と問い返してみるも、姿が見えない筈の新羅がイザヤの外見を当てたことに違いは無く、これが間違いじゃないことがはっきりしてくる。だが、更に俺に衝撃を与えたのは新羅の次の言葉だった。


「だけど、折原臨也はまだ生きてる。」


後ろの方でまだかなーと小さな声で言いながら空中で足をバラバラに動かすイザヤが見えた。


「……どういうことだ。」

「さっきの自殺未遂に追い込まれた教師がいただろ?その婚約者だかが後ろから彼のことを突き刺したみたいなんだ。その婚約者も同じ学校の教師。学校が隠蔽するのも無理は無いね。で、彼はかなりの重症だったんだけど生きてる。今は来良総合病院で長い間昏睡状態の患者ってことさ。それと、ここからが問題何だけど…、」


受話器から聞こえた声が信じられなくて頭にガツンと衝撃を与えられたようだった。礼を言って電話を切るとイザヤがこっちに来てもいいのかとうずうずしているのがわかった。


「なぁ、イザヤ…。お前俺に隠してることあるだろ。」

「…どうして?」


首を傾げながらも今までに見たことの無い表情をしたイザヤに怯みそうになったが、ガキに負ける訳にはいかねえ。


「俺がお前についてわかったことを全部教えるからお前も教えてくれないか?」


そう懇願すればゆっくりだが確かにイザヤが首を縦に振ったのがわかった。



2010,04,12

5話。
やっと折り返し地点。ちょっとずつ書きたいとこが書けて来ていて良かった…!
ちゃんとくっ付くことが出来て良かったです(笑)








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