04


「逃げてきちゃった…な…。」


誰もいない路地で呟いてみる。誰かいても自分が見えないのなんてわかってる。それはわかってるんだけど、とりあえず、今は誰にも見えないとこにいたかった。流石に今回は寝ぼけてたは通用しないし、そんなわけは無いと思ってる。だって、怖かった。シズちゃんなのにシズちゃんみたいじゃなくて、まるで他の誰かの様な感覚しかなくて、動けたのが不思議だった。ドア抜け出来ないなんて嘘バレちゃったし。ああ、これはどうでもいいか。


「なんだよ…、あんなにがっついた表情して…絶対おかしい…ってか気持ち悪い…。気持ち悪い…んだよ…シズちゃんなんか…。俺はそういう感情が無いのに。好きなのは人間であってシズちゃんなんかじゃ無いのに、なんでかな…、」


嫌われるのが嫌だ、だとか思ってる。それは多分久々に自分が見える人間であったからだと決め込んだ。シズちゃん以外には見えないんだからシズちゃんがいてくれた方が便利だから嫌われるのが嫌なだけだよ。それ以外に何もない。妙に煩い心と泣きはらした目がどっちもうざったい。大切なこと忘れてるけどシズちゃんは男で俺も男だ。シズちゃんはゲイなんかじゃ無いと思うし(今朝のあの反応を考えて)、俺はそういう感情が今まで無かったからわかんないけど。これからだって無いつもりだった。


「あー、帰りにくいよー。」


それでも自覚した方が楽だってのはわかる。自分が恋をしたことが無いからかもしれないから笑えていた(多分)一目惚れに笑えなくなった。だって、それ以外考えられない。シズちゃんには昨日会ったばっかりだし、そんな簡単に性格とかわかるわけ無いし、でも何となく優しくて面倒見が良いのはわかる。まるで、自分の弟か子供の様に俺を扱っていたから。最初から惹かれていたとか考えたら何だか余計に恥ずかしくて、今、俺、その辺の少女漫画に出てくるヒロイン並み。このまま人間観察を愉しむ余地は俺の心に無い。あぁ、もう困ったなぁ…。



−−−



「あの…、すいません。このページってどうしたんですか?」



しばらく呆然とイザヤが走っていった方向を見ていて頭が冷えた。つか、あいつやっぱ壁抜け出来んじゃねーかよ。嘘つきやがったな。

同性愛者なのかと聞かれればそれは多分ノーだと思いたい。俺の初恋は年上のお姉さんだった。だから別に年下趣味でも無い。なのに、何でなのか。俺が1番わからない。慰めようとして抱きしめるのは、まだいい。まだ見た目はガキだ。泣きたい時に胸くらい貸してやるってのが大人ってもんだ。だが、その先はどうだ?自分は朝、悪いと謝ったばかりじゃ無かったのか?矛盾した行動をしてしまった自分を恥じると共に信じたくないがあの時の感情が嘘じゃないってことがわかりやすいくらい沸々とくすぶっていやがる。あぁ、くそ。わけわかんねぇ。


「し、知らない…、その…、間違えたんだよ、ページを。」


尋ねると明らかにおかしな態度をとる年配の教師。気づけばスラスラとイザヤの外見を口に出して話していた。教師の顔は青くなるばかりで一向に何か新たな情報が出てくるわけじゃない。だが、口が滑り、イザヤと口にした瞬間。教師は突然謝り始めた。仕方なかったんだ、とかそうするしかなかったんだ、とか平和島くんは友達だったのか、とかわけわかんねぇことばかり話しやがる。気づけば、職員室の教師はみんなこちらを見ていた。慌てふためいた別の教師が年配の教師を連れて職員室から出て行き、それに流されるように俺も帰宅を促された。何より気になるのは俺がつけた名前であったイザヤに反応したことだった。


「まさかイザヤが本名とか…ねぇよな。」


第一、イザヤなんて名前付ける奴なんて普通はいないだろ。あいつはただ自分で138番だとか名乗ったから語呂合わせにちょうど良いと思ってイザヤと付けただけだし、偶然がここまで重なったら逆に怖い。だけど、イザヤという名前を出した時のあの教師の態度が引っかかって仕方ない。


「新羅にでも電話するかな…。」


そう思って取り出した携帯のアドレス帳を開き、数少ない友達である奴に電話を掛けた。


「イザヤって名前の学生ねぇ…。珍しい名前だから見つかるとは思うけど、それ静雄が付けた名前じゃなかったの?」

「いや、ちょっと気になることがあってよ。悪いんだけど、調べてくれねぇか?」

「今度、解剖させてくれたら考えるよ。」

「そうか、海の藻屑になりたかったのか言ってくれりゃあ藻屑でももずくにでもしてやったのによ。」

「嘘だよ、冗談だって!調べてみるけど僕に出来る限りだからね。」


わかった、と言って電源を切る。
内ポケットからタバコを取り出して1回吸う。
イザヤを探しに行かねえと、落ち着いた頭がはじき出した次の行動はそれだった。







2010,03,26

4話。
初のイザヤ視点が前半部分だったりします。もんもんと考えてる2人が今回書きたかった所。あんまりシズイザぽくない。









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