03


再びここに来てしまうとは思わなかった。6、7年振りくらいに母校に帰って来たと言うのだろうか。自分は決して真面目な生徒という区切りに入れられる人間ではなかったが、今回は重要な用事がある。校門の前であった教師には何でここに平和島静雄がいるんだ!みたいな表情で見られた。別に慣れてるからいいけどよ。


「ねー、ねー、シズちゃん。何で会う人会う人に避けられてんの?あ、イジメ?それともシズちゃんが危険人物だからとか?…なーんて。」

「どっちでもねぇし、俺は避けられる理由も無い。あえて言うなら俺の体質の所為だ。」

「ふーん。その体質も気になるけど帰ってからでいいかな。それより俺が気になるのはここの学校の子がみんなブレザーなことなんだけどさ。見れば分かるけどさ、俺は着てるのは学ランだよ?」

「お前が池袋から出てないっつーなら学校はここしかねえよ。それに俺が通ってた頃はここは学ランだったんだ。」


なるほどと相づちを打ちながらやはりキョロキョロとしてるイザヤを昨日と同じように落ち着けと襟首引っ張って隣に歩かせた。ポンポンと頭を叩くと、シズちゃんって俺のこと異常に子供扱いしてるよね、なんて少し機嫌が悪そうに呟いた。そんなに子供扱いされるのか嫌だったらキョロキョロすんなと思った。と、職員室はここだな、と必死に記憶を思い起こす。学生時代に職員室なんて呼び出しされることにしか訪れることはなかった。俺が分からない所を質問しに休み時間まで職員室に出向くようなそんなガリ勉では断じて無い。むしろそうだったらかなり気持ち悪い。


「…失礼しまーす…。」


小さな声で言いながら、ドアを開ける。すると昨日電話で応答したであろう自分の頃もいた随分と年寄りの先生がこちらに寄ってきて、椅子に掛けろと言ってきた。やはりキョロキョロしてるイザヤはもう気にしないことにした。
渡された何年分かの分厚い資料を渡されると校外持ち出し禁止らしく、隣の応接室で読めとのこと。言っておくが俺は今、初めて応接室に入る。


「とりあえず、俺と同じ世代から行くか。」

「じゃあ俺、シズちゃんの学生時代が見たい!」

「お前は目的を忘れたのか。お前の身元確認をするためにここまで来たんだろうが。」

「わー、シズちゃんって心が狭いね、ケチだね。そんなんじゃ、好きな人にも愛想つかれちゃうよ?」

「余計なお世話だ。」


パラリ、パラリとページを開いて行く。一向に現れないイザヤの姿。つーと、同学年じゃねえってことか?


「シズちゃん、シズちゃん。今のページから4ページ前に切られた後があるよ。」

「あ?」


言われて、ページを戻せば確かに切られた後がある。カッターか何かでそのページだけを切り取られている。前後のページを確認するも出席番号に問題は無く、前のページのやつが2番で次のページのやつが3番だった。ただの印刷ミスで余ってしまったページを切り取っただけじゃ無いのか、とイザヤに問えば、こういうとこに目がつかないからシズちゃんはダメなんだよーと両手を横に突き出して、やれやれといったポーズをとった。それにイラついたからパシンとデコを叩いてやった。


「いたーい。ぼーこーざいで訴えるよ?」

「アホ言ってないで何がおかしいか早く言 え!」


まだ何か言いたそうなイザヤだったが、しぶしぶと3と書かれた出席番号に指を指した。


「ここさ、明らかに印刷が他より薄いよね。つまり、他の紙に印刷されてた番号は2だったんだ。後から1本線を付け足したとしか見えないね。総じると、このクラスに存在していた筈の2番が何故か学生名簿からも存在を否定されているってことだよ。わかった?」


嫌ににっこりとした愛想笑いを向けられたが、確かに言われてみたらその通りで何も言えなかった。ただ、目線を顔から反らしてしまった性で見えた昨日俺が付けたらしい噛み痕が首筋にあって痛々しかった。反らしたことを後悔した。


「……とりあえず、そこは保留だ。他の年代を見てから考える。」


だが、貰った資料からイザヤは見つけられなかった。資料は10年分だったからこれ以上はイザヤの言動に該当しない。一応、俺より過去を辿ってみたがそれもやはり10年分程で手を止めた。考えられるのは先ほどの切られたページの部分がイザヤかもしれないと言うことだ。だとしても、何故切られている。イザヤの存在を否定しなきゃならない程の何かがあるってことしか考えられない。こいつ生前何を犯しやがったんだ。ちらりと応接室に置いてある金魚を眺めているイザヤを見ればいつもの表情をしてる癖におかしい。なんとなく今のイザヤがすごく心配で気がついたら後ろから抱きしめてるのがわかった。しなきゃいけないと思ったのだ。


「うわ、シズちゃん、何?」

「バレバレだ。お前だって決まった訳じゃねえんだからそんなに下手な演技ばっかりすんな。」


ふるふると少し震え始めたイザヤは小さく笑いながら呟いた。


「嫌だなぁ、シズちゃんってさっきは全然違和感に気づかなかった癖に何で今、気づくかな。」


全然下手じゃないし、と言いながらぽたりとイザヤの涙が手に落ちた。幽霊が涙を流すことが出来ることとイザヤが泣き始めたことが頭に反芻した。泣き止ませたかった訳じゃねえ。ただ、そうすることが正しいことだと思ったんだ。ゆっくりと緩慢な動きでしゃくりを上げているイザヤ向き合わせて唇を落とした。


今度は意識下だった。





2010,03,20

3話。
イザヤの何かがわかる筈が余計にわかんなくなってしまった。
本当の予定ならもう少し進む筈だったのに神谷の技量のせいであばばば…。












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