01
大変なことが起きた。俺は医者に行った方がいいんだろう。そうだ、きっとそうに違いない。
「で、その幽霊くんとやらはどこにいるんだい?」
「ははは、新羅。何言ってやがんだ、俺のすぐ隣にいやがんだろ。ほら、このガキだろ。」
「ざんねーん。シズちゃん、この人は俺が見えないみたいだよ。」
全然残念そうじゃなく、イザヤはからかいがちに言う。大層世間を舐めた面しやがって俺の隣ではしゃぐ。
「つまりさ、君の話を纏めるといつも通り池袋で借金の取り立てをしていて、ちょっと休憩しようと路地裏に入ったら、何故かその路地裏にはイザヤくんがいて、そのイザヤくんは幽霊くんでした!ってことでしょ?うーん、見ることが出来ればとても興味深いもの何だけどな。すごく解剖したいよ。」
新羅が厭に残念そうに言っているのを見て相変わらず狂ってる奴だと思った。しかしこんなんでも一応小さい頃からのダチだ。しかもこれでもちゃんとした闇医者だ。名詞がおかしいことには突っ込むな。
「うーん、セルティになら見えるかな。今ちょっと出掛けてるんだけどね。あ、幽霊くんはお茶とか飲めるの?」
「飲食は不可能だよ。今のところ俺が触れるのはシズちゃんくらいかな。」
新羅が不思議そうに答えを待っているのを見て、ああ、声も聞こえ無いのかと新羅に説明してやった。
「うーん、どうやら静雄にしか見えないし、聞こえないみたいだね。君がそんな血迷った嘘をつくようなタイプじゃないと思うけど…残念ながら僕には解決出来ないね。あと、ちょっとセルティを迎えに行ってくるから大人しく待っててね。」
勢いよくしまったドアと新羅の残念な叫びが響いた。ふと目を隣に移すといろいろな珍しい機械だか器具だかに目を輝かせてるイザヤがいて、とりあえず首根っこ掴んで大人しくさせた。
「んー、シズちゃん何ー?」
「大人しくしてろっつってたじゃねえか!」
「いやあ、知らないものが沢山あると気になるよね。」
いいから大人しくしろと隣に引っ張ると逆に今度は引っ付いて来てうざい。そんなに引っ付くなっつの!
「なんでお前そんな引っ付いて来るんだよ!」
「んー、いやね、この何かに触れる感覚が久々で暖かいなってさ。人間ってこんなに暖かかったっけ。」
「……別に嫌な訳じゃねえから好きなだけ感じとけ。」
言葉に詰まった。
口が何も発しない代わりに手がくしゃりとイザヤの髪の毛を撫でた。まるで猫のように首を揺らして引っ付いてるこいつにせめてもの同情紛いな行為。あー、こいつこれからどうするんだ。
「シズちゃんさぁ…、」
「何だよ…。」
「しばらく一緒にいてくれないかな。だって、今のところ俺のことわかる人シズちゃんくらいだし。」
「つーかよ、お前成仏する気とかねえのか?」
「それは…、」
言いにくいのか視線をうろうろさせているこいつを見て、あー、さすがにガキに酷いこと言ったか?と思ったが普通は幽霊がその辺をいつまでもうろついてるよりは随分正論な気がして訂正する気にはなれなかった。
「言いにくいならいい。別にいるだけなら俺の近くにいればいーんじゃねえの?幽霊なら生活費もかさまないしな。」
「ほんと!?」
ぱぁっと明るくなる顔にこいつ結構感情出やすいんだなと見た笑顔が男の俺から見てもわかりやすい程によく出来ていた。顔のパーツってのが上手く出来ている所為だとは思う。
結局の所、セルティもイザヤのことは見えなかった。俺が引き取ることになったイザヤに帰り道にいくつかわかることが無いか質問してみたが大してわかることがなかった。今まではいろんなとこで飛びながら過ごしていただとか、年とか名前はわかんないだとか、5、6年は池袋で過ごしているだとかそんな話くらいだ。わかったことがあるとすれば5、6年前から換算すれば今は俺と同い年くらいだということ。他には何にもわからない。
「お前もしかして、生きてたら同い年くらいか?」
「え?シズちゃん、何歳?」
「23だけど。」
「マジで!?見えなかった!無駄にデカいから25歳は、いってるかと思ってた!」
「お前は身長で人の年を決めつけるのかよ!ふざけんな!」
一発殴ろうとモーションを繰り出すも空に逃げれる性で当たらない。ったく、面倒くせえ。
「とりあえず、俺がお前の身柄を調べてやるからわかるまで限定だが世話んなる家だ。…ドア抜けとかすんなよな。」
「やだなぁ、シズちゃん。幽霊がみんなドア抜け出来るみたいな言い方しないでよね。俺は当たり前に出来ないから。」
そう小馬鹿にしたような物言いは俺の神経をかなりくすぐる。殴られたくなかったら大人しく中に入れとイザヤを無理やり押し込んでバタンと閉じた。
2010,03,11
1話です。
とりあえず、新羅に相談に行きましたシズちゃん。
そして何故かイザヤとの同居に乗り気なシズちゃん。
幽霊イザヤ君は来神臨也だと思っていただければ…。
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