時計の針がもう直ぐてっぺんに辿り着こうとしている。
もうそろそろだろうかと思った丁度そのときに家のベルが鳴った。
ピンポンと言う音が部屋中に響いて、相手の様子を確認もせずにオートロックを解除する。
そのままカツンカツンと上ってくる音がして、相変わらずエレベーターは使わないんだな、と心の中で笑う。
そして、もう一度ドアの前でベルを鳴らされたから玄関の前で待機していた僕はドアを開ける。

「ああ、待っていたよ。」

そこには期待通りの人物がいて、そのことに満足する。
いつもと同じ上から下まで真っ黒な格好をした、私の数少ない友達と言える彼がそこに立っていた。

「そりゃあ、どうも。」

そう言って臨也は手に持っていた紙袋を俺に渡してくる。
それにお礼を言って受け取ると直ぐに帰りそうになる臨也を引き止めた。
珍しい目でこっちを見てくるものだから、何が面白いのさ、と言ってやると、別に何も、と返ってくる。

「適当に座っていてよ。」

ソファに座った臨也はまるで借りてきた猫みたいに大人しくその場にいただけだった。
俺がコーヒーを置くと、夜にコーヒーとか眠れなくなるじゃん、と言ってくる。

「まあ気にせず。ああ、ケーキもあるんだけど一緒にどうかな?」
「自分の誕生日ケーキを人に勧めるっていうのも珍しいことだと思うけど。」
「まあ、その辺は気にせずに。」

ケーキがまだ冷蔵庫に入っていた筈だと思って、それも一緒に臨也に出そうとそう思った。
いや、実際はいつも臨也の分をなんとなく取っておいていたりする。
それは彼が毎年こうやって日付ギリギリに訪ねてくるようになったからだ。
綺麗に八等分に切られたケーキの残りを臨也の前に出してやる。
目を細めてそれを見るとイチゴにフォークを突き立ててそのままパクリと食べた。

「臨也っていつもイチゴから食べるよね。」
「そうだっけ。」

割と普通にそう返されたので、自分で本当に気づいてなかったのかもしれない。

「多分、欲しいものは最初に取っておかないと誰かに取られてしまうかもしれないからじゃない?」

いつものどこかふざけたような、そんな飄々としたようなそんな言い方ではなく、気だるそうに答えていた。
そうして口から生まれたかのように煩い友はもぐもぐと目の前のケーキを食べることに集中していた。
ああ、本当に臨也って面倒だよなあ、と顔が綻びそうになる。
いや実際綻んでいるのかも。

「なんか、新羅気持ち悪い顔しているんだけど。」
「それはほら、友達が誕生日に祝いに来てくれたからだよ。」
「あっそ、ケーキありがと。」

目の前に空になった皿を出されたのでそのまま空いた皿を流しまで持っていって、戻る。
臨也が携帯に目を移していることに気づいて、ああ、もうそろそろなんだろう、といそいそと目の前に座る。
カチリと秒針が動き続けて、残り時間が削られていく。
顔を上げた臨也が言葉を紡ぐ。

「新羅、誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」

針の全てがてっぺんをさして、自分の誕生日が終わったことを告げる。
臨也はいつもそうだ。
必ず、自分の誕生日の終わりに何かをする。
何時からだったかといえば、確か中学二年になった頃だった。
一日が終わるほどの時間になっていきなり訪ねてきて、いきなりプレゼントを置いて帰ろうとする。
最初は驚いたけれども、年を増していくに連れてそれが恒例行事みたいになっていたから自分も習慣がついてしまったのだと思う。
そうして、彼がそれから私の誕生日にそれを欠かしたことは無かった。

「じゃあ、プレゼント開けて良いかい?」
「どうぞ。」

がさがさと包みを開けると高級そうな箱が出てきた。
それを開けると眼鏡ケースが入っていた。
黒のサラサラとした外装に随分と開ける時が固い入れ物だと思った。
ケースに金色の文字で岸谷新羅と書かれていて、その場で眼鏡を外して入れてみる。

「君が毎年、眼鏡ケースをくれるものだから、たくさん溜まってしまっているよ。」
「そりゃあ、新羅の欲しいものが眼鏡ケースだとしかしらないからね。俺はそれをあげるしかないと思っているのさ。」

臨也が先ほどとは違って大仰に示してみせる。
まあ、それも俺が言っていないからそうなんだけど、と
思う。
こちらを見る臨也の顔がどこか嬉しそうにしているのに疑問を抱いたが、直ぐにその原因が思い浮かんだ。

「そんなに眼鏡外した僕が良い男かい?」
「いや、相変わらず目つきが悪くなるんだなあって思って。そういう顔の新羅が結構ね、珍しいから。」

手を伸ばして、眉間に指を指される。
けれども、それは全くどうしようもないもので、目が悪いのだから仕方ないとしか言えない。
グリグリと押してくる前に指をどけようと顔を振ると頬にそのまま手のひらがべちんとくっついた。

「あ、新羅って思ったより頬柔らかくない。童顔だから柔らかいのかと思ったのに。」
「臨也はぷにぷにだろう?」

ぐいっと頬を押してやると、言い方がセクハラ臭いからやだ、と言われる。とてつもなく心外だ。
いい加減に眼鏡を掛けようとしたら紙袋の中にまだ何か入っているのが見える。

「これ百均の眼鏡じゃないか。」

それを言うと臨也が照れたように顔を埋める。
しかも、透明の青色。一番最初に臨也がくれた眼鏡ケースとそっくりだ。
これまだ生産されてたんだ、と思うと同時に見つけてそのまま買ってしまった臨也を想像してなんだか苦笑が漏れる。

「新羅はそれが欲しいって言っていたから。」
「それって何年前の話っていうか、臨也ってそういうとこ可愛いよね。」

そう言うとあからさまに嫌な目で見られた。まあ、気にしないけど。

「じゃあ、俺は帰るよ。」
「え、飲もうよ。」

そう言ってビールを取り出してみせる。
いや、いいって、と言っている臨也だったけれども、そのまま押しとどめようと説得したら、付き合ってくれるみたいだった。
乾杯の後にちびちびと飲み始めた。

「ねえ、新羅。」
「なに?」
「欲しいものを先に取ろうとしたのに、その欲しいものが別のものを自分のものにしようとしていたらどうしたらいいのかな。」
「残念だけど、俺は時間がかかっても自分のものにするタイプだからわからないなあ。自分のものにするまでどんな相手からもそれを取られるのを阻止しようとするんだ。僕ってそういうやつなんだよ。」

口が煩くなってきた臨也に自分も似たように言葉を返せば、知ってた、と返ってくる。
知っているにそういう質問を投げかけてくるのは臨也に取っていつものことだから別にいいのだけれども。
ちびちびと飲んでいた筈なのに、あっという間に酔いが回ったのか臨也は珍しく随分と赤くなっていた。
話口調はスムーズなのに、ある程度の間が生じる。
それなのにまるで言うのをためらったかのような声が響く。

「新羅ってコンタクトにしないんだね。」

目線をこっちに向けず、あまつさえ顔さもこっちに向けようとしなかった。
それは独り言なのかもしれないけれども、はっきりと聞こえてしまったので返さなければならないだろう。

「それは君が眼鏡ケースを毎年くれるからね。」
「は?」
「コンタクトになって欲しいなら俺の誕生日に臨也がプレゼントしてよ。そしたらきっと次の年からコンタクトケースをプレゼントしてくれるようになるんだろう?」

そういえば、臨也はポカンとこっちを見ただけだった。




【コンタクトにはしない、】


新臨。
2012.04.02
新羅誕生日おめでとうございます。
遅刻ではないです、仕様です。










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