正臨企画「恋して愛した」様に提出。



小さく上唇をはむように口を付ける。決して貪るようなことは俺はしない。ただ、片手で思ったより小さな頭を掻き抱いて、もう片方で手を組んで押さえつける。漏れ出す息は暖かかったからそれさえも飲み込もうと深めると、途端に息苦しくなったのか呼吸音が早くなり、浅くなる。それで口を離すと酷く楽しそうな顔をした臨也さんがいて俺はただそれだけで不愉快に陥る。



遊園地に行こう、夏休み、お盆休みど真ん中の無駄に暑い日に臨也さんは誘ってきた。他に誘う人はいないのかとも思った。だが、何人かに誘いをしてそれで俺に回って来たのとそれは一体何が違う。何も変わらない、遊園地に行かないと断れば良いだけだ。それなのに流れを断ち切ったのは沙樹だった。行ってきなよ、と笑顔で見送りをする。なぜ、どうして、そんな思いが渦巻く。確かに、沙樹は臨也さんの事を崇拝している。信用とかそう言うものじゃない。ただ、苛立つくらいに本当に崇め奉っているのだ。それが正しいことかのように。


「場所どこなんですか?」

「電車で二駅くらいの小さな遊園地だよ。」


意外だと思った。この人は人間が多い場所を好む。それは人間を愛しているだとか、意味が分からない理論を語るが所以である。コロコロと信念が変わるせいかその最悪な性格に吐き気がする。相変わらず真夏なのに黒いコートに黒いハイネックに黒いズボン。暑く無いのかと思う。今日はこの夏一番の気温になるかもしれないなどとニュースで言っていた。それを分かっていてあの格好なのだから俺には本当に理解が出来ない。


「正臣くんはなんか苦手なのとかある?」

「特に無いですけど。」


そうなの?つまらない、と臨也さんはパンフレットを更に見渡した。小さな遊園地だからか1日あっても時間が余るくらいの内容しかない。いつもデジタル派な臨也さんは珍しくサインペンだかを取り出して書き込みし始めた。大きく×がついたとこの説明を見やると超巨大お化け屋敷と書かれていた。そこを凝視してしまっていたせいか、不信そうに臨也さんはこちらを見た。その視線に気づかない振りなど出来なくて、ただなんとなく口に出した。小さく閉じられた口が少しだけ開いて、早めに内容を伝えた。


「あいつらみんな目が死んでるから嫌なんだよ。第一、俺は人間を愛しているのにわざわざ幽霊とその類にしかならないのを見る意味があると思うかい?俺は思わないね。」

「ただのアトラクションじゃないですか。」


それでも嫌なものは嫌とでも言う風に目を伏せた。絶対に行かないとでも決めたのか、自分に都合の悪い話は止めたいのか、多分どちらでも有るんだろうと思った。臨也さんは怯えるのだろうか、たかがお化け屋敷に。張りぼてかもしれないのに、陳腐な仕掛けかもしれないのになんだか怯える、酷く滑稽な臨也さんが頭に思い浮かんで離れなかった。それでもお化け屋敷には結局入らずに時間が過ぎていった。ほとんど周りつくして日が真上に来るくらいの時間になった。臨也さんは暑そうに腕を団扇にしてはたいていた。だから、そのコート脱げばいい話なのに、と思う。


「暑いね、正臣くん。」

「コート脱げばいいじゃないですか。見てる俺も暑苦しいです。」

「うーん、そうだね。流石に厳しいかなぁ…。」


スルリとコートを脱げば、余り見ない半袖の臨也さんになった。夏だってのにどこまでも真っ白な肌をしていた。いつもこれ着て歩いてるからか、と思うとなんだかフラフラとしているように見えた。なんとなく気になって腕を掴むと熱い。どこか顔色も悪く見える。


「臨也さん、あんた顔色悪いですよ。日陰行った方が良いです。」

「心配してくれるの?正臣くんは優しい子だね。」


周りを見渡すも座れそうなベンチなど無く、どこかアトラクションの陰になってるとこは無いかと探したがなかなか見つからない。しかし、この人どう見ても熱中症だ。当たり前だ、真夏日にあんな黒いコートなんて着ているから。あんなに暑い、暑い言ってる癖にあんまり汗もかいていなかったし、脱水症状を併発しているかもしれない。ああ、面倒くさい人だ。わざわざそんな服着てこなくてもいいのに。そういえば、医務室とかどこかにあるはずだと臨也さんが持っていたパンフレットを見ると入り口近くにある。臨也さんの片腕を掴んでそこまで連れて行こうとした。


「大人しくしていてくださいよ。」

「今の俺に騒げる元気があると君が思っていることに驚きだよ。」


いちいち鼻に触る言い方ばかりをする。そのままここに放置してやろうかなんて思っていたりする。ただ、それをしようにも何故だか出来ない。どんなに憎かろうが、自分でそれを実行するというのには後ろめたさが尾を引いて出来ない。ああ、どうせお人好し人間のする態度だよ。ちっとも成長出来ていやしない。自分に悪態をついてただひたすら臨也さんの手を引いて入り口近くまで戻って来た。医務室でやけにバタバタと騒がれていたけれど、それもしばらくしたら収まってただベッドで横になって寝ている臨也さんがいた。閉園時間までまだ時間があるらしいのでしばらく休んでいていいと言われた。ぴちゃんと点滴が落ちる音だけで埋め尽くされた空間にただなんとなくベッド脇のパイプ椅子に座る。ふと、立ち上がって屈んで顔の近くによる。離れたら臨也さんは酷く楽しそうな笑いをしていた。


「寝込み襲うなんて正臣くん、顔に似合わず最低だね。もう1回する?」

「結構です、臨也さんは一口で胸焼けしますから。」


そう言えば、ただ臨也さんは笑みを深めただけだった。




【息の詰まる幸福論】


(なんでこんなに息するのさえ苦しいんだろう。)(それは正臣くんが俺に恋をしているからさ。よく言うでしょ?胸が痛くて上手く呼吸出来ないって。)(冗談もほどほどにしてください。)







2010,08,14

正臨。

補足説明です、すみません。最初のキスシーンは最後のキスシーンの描写です。
というわけで、正臨でした。なんかお題と逸れててものすごくすみません…。あと、あのコート絶対熱中症なるって思ったんです。なんだか私、この2人はこんなのばかりだな…。仲良しとかならないものね…。すっごいラブラブな2人を1回書いてみたいものです。









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