10


バタバタと後ろで急ぐ音がして、ふとベランダで一服していたタバコを携帯灰皿に入れて振り向く。


「なんでシズちゃん起こしてくれなかったの!?」

「ちゃんと起こしたっつの。」


お前が起きなかっただけだ、と続けようとしたのだが、臨也の叫び声でかき消された。それにしても、俺が臨也を起こすなんて不思議なもんだ。俺の記憶の中の臨也は寝る、なんてなかったし、いつも俺が起こされてた。どうやら臨也の記憶は刺された時で止まっているらしく、あれから既に5年も経っていることに酷く驚いていた。だが、恐ろしく順応能力が高いのかすぐにその様子は消え去り、これからどうするか、と俺に問いかけてきた。臨也の両親は海外で働いているらしく、すぐには連絡つかないとのこと。そう言われて、俺は自分でも驚くくらいにすんなりと、じゃあ、俺ん家に泊まるか?と言葉が出てきた。それを家が見つかるまでと快諾した臨也は現在退院して俺の家にいる。ガサゴソとカバンの中を漁っては、ノートや教科書を出し入れしてはいるが。つまり、臨也は今、学校に通っている。調べた結果、留年扱いだったらしい折原臨也の枠を卒業しようとしている。23歳の高校生なんてのも笑えるが、実際そんな大差なく見える。先日、新羅を会いに行った時もあんまり違和感ないね、なんて言ってた。新羅は臨也のことを解剖したがっていたのでイラつい
たので1回ぶん殴った、いや未遂だけどな。


「ほら、弁当忘れんなよ。」

「ん、ありがと!」


朝早く起きて作った手製の弁当を臨也に渡す。思えば、弁当を作ったのなんてこいつと住み始めてから初めてやったことだった。好き嫌いと言うよりも既製品のおかずなんかがあまり好きじゃないようで最初は随分と手を焼いた。おかげで自分の分まで作るようになってしまい、たまにトムさんに申し訳なくなる。だけど、トムさんは優しいので俺が持参しようと気にせずに一緒に食べてくれる。ちなみに、臨也が初めて弁当全部食べて来た時には良かったな、と言ってくれた。


「忘れもんねえか?」

「ガキじゃないんだから、そんなこと聞かないでよね。」


似合わないブレザーに身を包んだ臨也はローファーを履き潰しなんてこともせずに丁寧に履いた。


「じゃあ、行ってくるね。シズちゃんも遅刻しちゃダメだよ?」

「遅刻しそうな奴に言われてもな。」

「まだしないよ!全然余裕だから!」


そういえば、シズちゃんという呼び方は変わらなかった。最初に泊まることになった時から名前、シズちゃんでいいよね?なんて悪戯っぽく笑うもんだから、嫌だった筈の呼び方なのに別にいい、とかそんな風に返してしまった気がする。記憶が有ろうと無かろうと臨也の俺に対する呼び方は変わらないらしい。そう考えたらなんだかそれが嬉しくなってきて、再び抱きしめそうになった。臨也は俺がもし忘れてもまた俺に惚れさせると言った。ならば、俺だってそうするしかない。何かの拍子に記憶が戻らないかとか考えているのは否定出来ない。だが、それよりも今、俺の原動力となっているのはもう一度、あいつを、臨也を惚れさせるということだ。遠い道かもしれないけど、それでも俺はそうするしかないと思っていた。


「あ、臨也。」

「なに?」


呼び止めた臨也のそばまで行って、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。同い年なのに子供扱いする癖が抜けないのはあの3日間のせいだと言っても過言では無い。学ランではないものの、同じように制服を着る姿を見るとついやってしまう。身長差が結構あるからかもしれない、と自分に言い訳を付ける。実際、これをすると少し怒った顔になる臨也はいつも、俺、シズちゃんと同い年なんだけど。なんて睨みをきかせる。


「何回も言うけど、俺、シズちゃんと同い年だから。子供扱いすんなよな。」

「ああ、わりぃ。つい癖でな。」


不機嫌な顔をする臨也だったが、時間が無いのであまりそれを向けずに玄関を開けて飛び出す。


「遅くなる時は連絡しろよな。」

「はいはい。あとさ、さっきのもしかして前に誰かにやった?」

「なんでだ?」


なんとなく不思議な顔をした臨也が玄関の扉を閉じるのと同時に言葉が放たれた。









「だって、俺、学ラン着てたの昔の話だし。」




fin


2010,07,16

10話。

ハッピーエンドのつもりです。私の中では。
長い間お付き合い本当にありがとうございました!
連載完結したのも久しぶりのことでしたし、展開を考えて始めたのも実は初めてでした。詳しいあとがきは後ほど、日記にでも載せたいと思ってます。









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