00~01




恋:一緒に生活出来ない人や亡くなった人に強くひかれて、切なく思うこと。また、その心。

なんて、辞書を引けば書いてある。これはこれは、けったいな意味を付けたものだと当時の俺はそう思うしかなかった。






「臨也、私のコート知らない?」

「知らないよ、なに、またお出かけ?」

「疑問を疑問で返されても甘楽ちゃんは困っちゃいますうー。」

「棒読みはしなくていいから。」


携帯を片手でいじりながら、髪の毛をとかしているのは双子の妹の甘楽。小さい頃からよく似たお子さん達、なんて言われていた。実際、双子なんだから似ているのは当たり前なんだけど、それも普通は小さい頃までの話だ。それなのに、今でも俺達の双子の妹達にまでイザ兄が髪の毛長くしたら絶対カン姉になるよね!などと言われるくらいに似ているらしい。悲しいことに身長まで同じだからかもしれない。この妹は成長期に伸びすぎてこうなった。女性なんだからもう少し低い方が可愛げあるんじゃないの?なんて茶化すと、自分が小さいことを認めたく無いだけだよねぇ!なんて反論される。全く、俺に似て強靭な性格の妹だよ。


「じゃあ、臨也のコート貸してよ。一着くらいいいでしょ?」

「…丁寧に使ってよね、本当に。」

「わかってるって!」


そう言うや否や携帯の音が鳴り響く。ああ、もう時間みたい!、そう言って飛び出して行く甘楽を見て、俺は遅くなる時は連絡頂戴、なんて言ってヒラヒラと手を振る。勢いよく閉まったドアが間髪入れず、再び開く。忘れ物か何かとドアの方向を見る。


「そういえば、この前、シズちゃんが臨也に聞きたいことがあるって言ってたよ!暇な時、連絡くれってね!」

「あー、はいはい。わかった、わかった。その愛しのシズちゃんとのデートに遅れちゃっていいの?」


あ、やばい、なんて声が聞こえて、じゃあ、行ってくるから再びいってらっしゃい、と声を掛ける。閉まるドアを見てから、向きを直してパソコンでの情報処理を続けながら思う。シズちゃんが俺に話したいことかぁ…。大方、甘楽のことなんだろうな…。割と嗜好…、所謂、好きなものとかが双子だからかはわからないが似ているからなぁ…、多分そんな相談だ。それでも、いいや。シズちゃんと話せるだけで嬉しいし、このままの関係で満足している。彼女の双子のお兄さんって悪くない立ち位置だと思うんだ。だって、その理由からか何かと3人でいても怪しまれない。
過去話とかするけどさ、俺達結構シズちゃんに酷いことしたんだよね。まぁ、簡単に言えば俺達が考える人間愛にシズちゃんが当てはまらなくて、それでシズちゃんがいなければ俺達は世界中の全ての人間を愛することが出来るのにって思っていた。つまり、シズちゃんを排除しようとしていた。けど、ある日、本当にいきなりのある日だったけど、甘楽がシズちゃんと恋人になったって話を聞いた。甘楽はそれでも臨也は許してくれる?、と泣きそうな声で尋ねて来た。俺は、いいよ、許すよ、なんて言ったと思う。それから、俺達とシズちゃんの間にあった対立関係は割とあっけなく消滅した。最初は俺相手に戸惑っていたシズちゃんだけど、俺が謝罪をして甘楽とシズちゃんの仲を取り持つように計らったおかげか今じゃ、そんなに悪い仲でも無い筈だ。
でもね、さっきもちょっと思ったけど俺達は双子だからかわからないが、嗜好が似ているんだ。だから、好きな人が同じってのも簡単に否定出来ない。俺はシズちゃんが好きなんだ。双子ってのは恐ろしいものだ。俺と甘楽は双子だが性別は違う。まるで、俺がゲイ扱いみたいに思われそうだけど、それは違う。シズちゃんだから好きなんだ。人間を愛することとは違う。分け隔てなく愛するそれと違って、俺達はただ1人を好いていた。シズちゃんが2人いれば良かった?そんなのは愚問だ。2人もシズちゃんはいらない。だって、もう1人のシズちゃんはシズちゃんであってシズちゃんでは無いからだ。普通に考えて叶わないそれは俺を一気に現実主義化させた。甘楽が羨ましいと思ったことだって一度や二度どころじゃない。こんなにも似ているのに同じなのに、何故性別だけ違うのか。不可解な疑問だった。きっと俺には何年、何十年、何百年経っても答えは見つけられないだろう。それでも、その同じで溢れている俺達の唯一の違いを使って甘楽はシズちゃんの恋人になることが出来る。不公平だとは思わない。まず、俺はそういう類の神は信じていないタイプだからだ。それに性別なんて障害も関係なく恋人同士になっている人たちだって少なくない。つまり、ただ、シズちゃんが甘楽の方を好きだったってことで全て丸く収まる話だ。
そこまで考えてしまった所為かなんだかキーボードを打つのでさえ億劫になった。まだ、早いけど何か夕食の準備でもしようかな、と時計を見たところで携帯に着信が来た。番号は登録されていない、珍しいこともあるものだ。一体、誰だろうと電話を取る。


「はい、折原ですが。…はい、そうですけど……え…。あの…、わ…わかりました…。」


手が震える。今、耳を通過した言葉は本当なのだろうか。何も考えられない。コートを探すも見あたらなく、先ほど貸したことを思い出す。ふと、ソファーの反対側に落ちている同じ種類のもう1人が探していた別のコートを掴んで、引っ掛けるようにして着て走る。途中でタクシーを止めて、乗せて貰う。信号がいちいち長く感じる。焦りばかりが先行して真っ白になる。たどり着いた、嫌に暗くて、嫌に寒い部屋に俺とそっくりな顔をした人間が横たわって寝ていた。周りにいる奴らも間違えようもないだろう。こんなに似ている顔を見たら。


「すみません、運び込まれた時にはもう既に心肺停止の状態で…手は尽くしたんですが…。」


後はもう何も聞こえなかった。呆然と、ただ俺は俺の半身を見ていて、その場に立ち尽くしていただけだった。他の家族にも連絡差し上げた方が…との言葉で、それまで固まったままだった震える腕を使って妹達に連絡をした。信じられないといった妹達も声が震えていたことは確かだった。静かに流れでる涙が頬を伝い、そのままぽたりぽたりと小さな水たまりを作った。と、その時、鳴り響いた携帯の音。俺じゃない、とすれば…、周りにいた奴らの1人が俺に携帯を差し出してくる。色違いのその携帯のディスプレイには'シズちゃん'と示されており、俺は通話ボタンを押して、残酷な現実をシズちゃんに伝えなければならない。なんという損な役回りだろう。


「甘楽、良かった。お前、今どこにいる?」


ほっとしたようなシズちゃんの声。俺はこのシズちゃんに現実を叩きつけなければならないのか。理不尽だ。それでも何も話さなければ不振に思われるだけだ。そうわかっているからこそいつもは楽しい筈の事でさえ辛い。


「あのね…、落ち着いて聞いて欲しいんだ。」

「その声…、臨也か…?なんでお前が…、」

「甘楽が死んだんだ。」

「は…?何言って、」

「交通事故。プラットフォームに停止するはずの電車が横倒しで突っ込んで来て、白線の最前列に並んでいた甘楽が直に被害にあって、死んだ。」


淡々とまくし立てるように言って、シズちゃんの声が止まる。俺が嘘をつかないことは知っている筈だ。だから、俺はそのままここの場所だけ教えて、通話を切った。


直ぐにやってきたシズちゃんは部屋に用意されている椅子に座ってる俺と甘楽を交互に見て、そのまま泣いた。綺麗な泣き顔だった、嗚咽一つ吐かずにただ、冷たくなった甘楽の手を握ったまましゃがみこみ、俯いて動かなくなった。俺はただそれにつられるように涙を流すしかなかった。










あれから葬儀も滞りなく済み、空間が空いてしまった俺の家だったけど、その悲しさにも踏ん切りがつく頃だった。甘楽の荷物を整理している時にふと、来客が訪れた。一体、誰だろうと確認するとシズちゃんで、多分甘楽の遺品の一部を引き取りに来たのだろう、とドアを開けた。


「シズちゃん、こんにちはー。ちょうど今、荷物整理してたとこだったんだ。好きなやつ持ってっていいよー。」


そう言って、部屋に招こうと後ろを振り向いた瞬間に抱きしめられた。え、なにこれ。異様に近く感じる体温。こんなこと初めて過ぎて頭が理解出来ない。


「えーと、シズちゃん?どうしたのかな…?」


返事を寄越さないシズちゃんにどうしようかな、と思っているとふと何か言われた気がした。


「え、なに、聞こえなかった。もう一度言って?」

「かんら…。」


どくん、脈打ったのが自分でもわかる。ばかだな、シズちゃん。どんなに似てても俺は甘楽じゃないのに。


「シズちゃん、俺は甘楽じゃない。わかってると思うけど、甘楽は死んだんだ。確かに俺は甘楽に似てるかもしれない。でも、シズちゃんが好きな甘楽じゃないんだ。わかったら、離して。」


そう言うものの、甘楽、甘楽と名前を呼ぶばかりで何も進展が無い。しょうがない、無理やりなんとかするしかないか、とゴソゴソとナイフを取り出そうとした時だった。


「いざや…。」


はっきり聞こえた。俺の名前を呼んで更に抱きしめるシズちゃん。持ち始めたナイフがカランと床に落ちて、正面を向かせられて、抱きしめられる。シズちゃんの顔が脇にあって、俺はシズちゃんの肩の上に顎を置いていた。


「甘楽、好きだ。」

「……俺も…、好き…だよ…、シズちゃん。」


俺の名前を呼んだシズちゃんはきっと、もう一度だけでいいから甘楽を抱きしめたかった、恋をしたかったのだろう。だから、縋るように俺の名前を呼んだ。卑怯だ。卑怯でしかないのに、俺は甘楽がシズちゃんをどうしようもなく好きなように、シズちゃんがどうしようもなく好きだった、だからそれに乗ってしまった。決して叶うものじゃ無かった長年の想いだったんだ。それを、一度だけで良かったんだ、その甘ったるい代わり者の関係を味わいたかった。だから、それが、始まりだったなんて俺には知る余地が無かっただけなんだ。









恋:一緒に生活出来ない人や亡くなった人に強くひかれて切なく思うこと。また、その心。




恋率方程式 00~01







2010,06,23

また特殊設定です、すみません。
幽霊?パロの後の新連載予告です。やけに長くなったのはプロローグと第1話が1つに纏まってるからです。

臨→静甘のお話です。予定では20話くらいの無駄に長いお話です。需要が無いお話を作るのは得意です。お話を読んでくださればわかると思いますが、臨也と甘楽が双子で甘楽と静雄が恋人同士というお話です。あと、静雄と甘楽は高校生時代のある時からお付き合いしてます。そこら辺の過去話はいずれお話でお伝え出来れば、と思ってます。実はこれ結構文字数ギリギリだったりします(笑)














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