国語追試とお姫様

3年Z組の担任、坂田銀八の自室になりかけている国語準備室。

の、どこからか運び入れてきたソファーにダラリと横たわっている少女は、これまた3年Z組の高杉晋。


定期試験も終わったある日、
出席日数不足だが成績優秀な彼女は退屈そうに携帯をいじっていた。

「沖田か神威か、神楽あたりと一緒に遊びに行こうと思ってたのによ…あいつら揃いに揃って追試ってバッカだよなー……」

ぽつり、一人言を呟いた。

「つか銀八来んのおっせーな……今日は国語の追試なのかもな……」

またぽそぽそと呟きながら、まるで自分のベッドのように寝返りを打つ。

短めに折ってあるスカートがシワになるだとか、そんなことも考えない。

携帯いじりにも飽きると、その辺に置かれたジャンプに手を伸ばしてめくってみる。

最近読んでいなかったからわからない、とそれをまた手放す。

「…暇ぁ……」

不服げに顔をしかめてグダグタとする様子はまるでどこかのわがままな姫君のようだ。

「…なんか、眠くなってきた…かも…」


ガラガラ、と国語準備室の扉が開く音がしてそちらに今まで天井に向けられていた目をむけた。

「ん、銀八」

「おいこら高杉、何でお前こんなとこにいんだよ」

「は?いつもここにいるじゃねぇか」

そう、銀八の高杉は隠れた恋人。

よって二人がここにいることなど日常茶飯事のはずだ。

「つーかまず起き上がれ。パンツ見える!話に集中できない!」

「あ?俺のパンツなんて見慣れてんだろ」

「女の子がパンツなんて言っちゃいけません!」

「パンツよりもひどい言葉俺にいつも言わせてんじゃねーか」

「とりあえずほら起きて」

ちっ、と舌打ちしながら高杉は身体を起こす。

「もう追試始まるから、3z行くぞ」

ソファーの下に無造作に脱ぎ捨てられてあった、かかとの潰れた上履きにつっこみかけていた細い足が止まる。

「………は?」

「ほら、今日国語。今俺この問題取りに来たんだし」

相変わらず気だるそうに茶封筒を抱える銀八。

高杉は右目を見開いて銀八を見た。

「……なんの冗談だよ、俺がんなもんにひっかかるわけ…」

「お前返却されたテスト見ただろ?」

「見るわけねぇだろ?成績いいに決まってるもん」

「どんだけナルシスト!?自信満々!?俺が学生の頃なんかなっ……」

「どうせお前の採点ミスだろ?」

「最後まで人の話聞けよ、つーかしてねーわ!」

銀八はマイペースな高杉にツッコミを入れてから頭をがしがしと掻いた。

「はぁ……悪いが、今回の高杉の国語の点数は学年最下位だぜ」

「………おいおい銀八、4月まではまだまだ時間あるぜ、どんだけエイプリルフールが楽しみなんだよ」

「いやエイプリルフールそんなに楽しみな奴ぁ子供でもいないだろ、つか嘘じゃないから!」

高杉は眉をひそめながら自分の学生バッグに手を伸ばした。

「……あれ、どこやったっけ」

「ちょっ!!銀さん時間ないの、早く探してくんない!?」

がさごそと教科書が一冊も入っていないバッグを漁る学生と、それを急かす教師。

「……んー…これはこの間の保護者会の案内か」

「それ二ヶ月前ェェェ!ちゃんとお家の人に渡せって言ったでしょーが!」

「…これはホストクラブのチラシか」

「どこでそんなもん貰ってきたの後で詳しく先生に話なさい」

「…あ、あったこれか」

「それ前々回だろーが!何、お前どんだけプリント溜め込んでんの!?小学生男子のランドセル!?」

「さっきからうっさい……あった」

ようやく見つけた答案用紙を開いた。

「………あ、れ…」

そこには赤いペンで、“0”と書いてあった。

「……銀八、1と0が1つずつ足りないぜ…」

「違ェェェェ!それどっからどーみても0点だろーがァァ!!」

銀八の叫びに呼応するように高杉も声をあげる。

「はぁぁぁ!?この俺がんなアホみたいな点取るわけねーだろ!?」

「よく見て名前の記入欄!」

銀八が指差す欄には、何も書いていなかった。

「………あ…」

「高杉晋ちゃん、名前の書き忘れで92点げんてーん。わかったらとっとと行くぞ」

銀八は高杉の腕を無理矢理掴んで教室へ連行し始めた。

「92点ならいいじゃねーかよ!!何で!!」

「いや、お前返却されたその日に俺が後ろから胸触っただけでぶちギレてヤらせてくんなかったじゃん?つかその日から一回もヤらせてくれないし。だからちょっと仕返し」

「あ?あの日はてめぇがっ………」

ひきづられながらも反論しようとした高杉だったが、ふと言葉につまった。

「てめぇが、何よ」

「………ぅ…」

「何か言いたいことがあんじゃないの?」

ペタペタと人通りの少ない廊下を早足に歩きながら恋人を振り返る銀八。

「てめぇがっ、学校で私服の女と…二人きりで、喋ってて…」

「………あ…」

「で、その女がてめぇに告白したの見たからっ……」

「………あー…うん」

苦そうに唸りながら立ち止まる銀八の胸ぐらを掴んで、

「なぁ銀八っ、あの女とどんな関係なんだよ!」

高杉は恋人を睨み付け問いただした。

銀八は気まずそうに視線をおよがせてから、申し訳なさそうに口を開いた。

「……あいつは、前の俺の教え子。
前にも一回告白されたから断ったんだけど、あの子は教師と生徒はご法度だから断られたってなんか勘違いしたらしくて、それで、卒業してからもう一回、って……」

国語教師も言葉がたじたじだ。

「…………」

高杉はそれでもじっと銀八から目を離さない。

そんな高杉の目線さえも銀八にとっては愛しいもの。

「もちろん断ったよ。だって今の俺には晋ちゃんだけだから」

「あの女、髪は長いし、目もぱっちりで胸でけぇし……あのお姫様みてーなピンクのヒラヒラした服、俺似合わねぇ……俺なんかより、」

「やだよ。俺は晋ちゃんが一番可愛い、大好きだよお姫様」

にこ、と銀八が笑うと微かに涙がたまっていた目が輝いて。

「………っ銀八…!」

高杉は銀八の肩に頭を寄せてぎゅうと抱きついた───







「……あのー、そろそろ追試始めてくれやせんかィ?」

──そう、3zの教室で。

「確かに君のところのお姫様は可愛いかもしれないけど、俺達別にあんたらのイチャイチャ見るためにここにいるんじゃないんだよね」

「兄貴駄目ヨ、晋は可愛いけど男がそんなコト言ったら銀ちゃんマジギレしちゃうアル!」


先ほどの会話をしてるうちにいつの間にかに教室に着いていて、バカップルの会話は再試の生徒全員に聞かれていたのだ。

このクラス公認の、教師と生徒の恋愛はもはやひやかしの対象でしかない。
ので、問題はないのだが。

まぁ銀八はある意味見せつけていたのでそのコメントにも大して動じていない。

高杉の方はといえば頬を真っ赤にさせて、

「……っ馬鹿馬鹿馬鹿野郎!」

銀八を思いきり突き放した。

そしてそのまま走って出ていってしまった。

「あ、やべ行っちゃった!おーい高杉ィィィィ!」

「先生が程々にしねーからですよ」

「うっせー多串。あーえー、悪いけど先生の息子がピンチになりそうなので今日は追試なし、また明日な。待たせて悪かった」

そう言った瞬間銀八に生徒のブーイングと、酢昆布の空き箱とマヨネーズとダークマターとジャスタウェイと様々なものがが飛んできた。

「おめーらうるせっあいたたた!ちょっジャスタウェイ投げたのどいつだよこれ本編だと爆弾なんだぞ!」

「俺達の時間を返してください」

「先生と高杉が付き合ってんの校長に告げ口しやすぜ」

「殺しちゃうぞ先生☆」

「殺しますよ先生」

「お前ら物騒なんだよ……つか他の教師に言いつけるとか生々しくてマジ鬼畜だよね流石沖田くん。…あーもうわぁったよ!お前ら追試はもうなし!皆合格だよバカヤロー」

「「やったぁぁぁあ!」」

「じゃ解散、散れ散れ。俺は姫さん探してくるわ」

「後で高杉にお礼しなきゃね」

「ツンデレの晋がデレたお陰でござる」

銀八はそんな声も無視して教室を出ていく。


明日からどんな顔をして友達に会えばいいんだと悩むお姫様を、
次にあったらあの娘はどんな顔をするだろうと期待しながら迎えにいった王子様。



こんなことは日常茶飯事。



国語追試と、お姫様。







*****



八♀高でギャグ甘のリクエストでしたが女である必要を見失ったわネタは滑るわただの嫉妬だわまとまんないわでひどいですね…

すいませんでしたぁぁぁ!


橘空様に捧げます。
相互ありがとうございます

不束者ですがよろしくです
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