▼弥生 桃(国語教師×保険医)
「試験の丸つけめんどくせ〜高杉手伝ってくんね?」
「てめぇの仕事だろ」
「お前今暇そうじゃん!」
「調子悪い生徒を介護するため保健室で迎えてやるのが俺の仕事だからなァ」
突然保健室で仕事がしたいなんて押し掛けてきたんだ入れてやっただけ感謝しろ、と面白そうにコーヒーを差し出してやる高杉。
そんな彼を不服そうに睨み付けてから、銀八は赤ペンを片手に勢いよくコーヒーを飲み干した。
「桃の節句ってなぁ」
「んだよ」
「いやァ今授業で和歌やっててな」
「春の季語?」
「そうそう」
銀八のペンの音が保健室に響く。
春らしさが訪れようとしているいつもより少し暖かい気温と、規則的なその音が高杉の眠気を誘った。
「……」
「だぁぁぁ疲れ…」
仕事が一段落ついて、銀八は一度ペンをおき背伸びを……しようとした。
「……高杉?」
高杉は向かいの椅子に座り、こくりこくりと頭を垂れながら夢の中にいたのだ。
珍しく無防備に居眠りなんてしているものだから(しかも手伝ってくれずに)、銀八は近づいて高杉に何かいたずらしてやろうと目論んだ。
「たーかすーぎせんせ?」
が、その意思はその寝顔を目の前にして一気に抜け落ちてしまった。
いつも布団の上で見ているはずの寝顔でもなんとなく新鮮で、可愛いなぁなんて思ってつい見とれる。
ちらちらとワイシャツから覗く白い首筋に、いつもこんな無防備に歩いているのかと再確認してなんとなく腹が立った。
「……んっ」
鎖骨のあたりに唇をあて、ちゅうと軽く吸う。
皮膚を吸われる痛みに高杉は目を冷まし、状況を把握するのに多少時間がかかった。
「あっ……起きた高杉?」
「てめぇなにしてやがる」
「あっえーと……」
視界のすみにうつった問題用紙。
「も、桃の花を……咲かせ……」
「……」
じとりと銀八に一瞥くれてから、高杉は鏡をのぞきこんだ。
「こりゃ見事に咲いてやがんな」
「は、春だから」
怒りより呆れの色がうかがえる声色に銀八は頭をかきむしる。
「春がきてんのはてめぇの頭だけだろーが」
「てめぇが無防備に首さらしてんのがいけねぇんだろ!せいぜいネクタイしとけコノヤロー!」
たまにしかネクタイをしていない高杉のワイシャツの襟をただし、銀八は自らのネクタイをほどいて高杉に巻き付けた。
「……銀八のにおいがする」
「何可愛いこと言ってんの」
「くせェ」
「んだとゴラァ!!締め上げてやろうか!」
なんだかんだ言いながらキスマークが隠れる程度にネクタイを締めてやる銀八。
「あれだよね俺高杉に甘すぎるよね。……あっ首ったけってやつ?ネクタイだけに」
「……上手くねぇよ馬鹿」
桃の花
季節なんてお構い無し、君に首ったけ!
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女性が男性にネクタイのプレゼントを贈るのは「貴方に首ったけ」って意味があるらしいのでちょっとひっかけて。
桃の花言葉は
“私は貴方の虜”
“チャーミング”
“天下無敵”
“貴方に首ったけ”
等。
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