霜月 楓(銀高)

「この時期になると日本のそこらじゅうが紅くなって綺麗っスね」

空を浮いているこの船から紅葉を見上げることなんて出来ない訳だが、空から見下ろす橙色にもなかなか風情があるものだ。

大気圏に突入した今、左隣で来島が何やら楽しそうに万斉や武市の肩を叩きながら地球を見下ろしていて、右隣では神威とその参謀がつまらなさそうに窓の外を見下ろしている。

「地球人はわからないね。葉っぱが腐り落ちる赤よりも命が腐り落ちる血の赤の方がよっぽど見てて楽しいけど。」

「そうさなぁ、」

命を奪うことだけに喜びを感じるこの男にはまだ理解するには難しいかもしれない。

「神威、てめぇには何かいい思い出なんかねぇのかい」

「俺?いい思い出……ね…」

首を捻るそぶりをしては見せるが、こいつがあからさまにそんな態度をとるときは心当たりがないときだ。

「高杉には何かあるの?いい思い出ってやつが」

「ああ。お前よりも俺の方が長く生きてるしなぁ」

昔、先生がいた頃楓の押し花で栞を作った。
押し花といっても正確には花ではなくここが拾ってきた綺麗な落ち葉。
最初落ちた葉よりもまだ木についている葉をとった方が綺麗な押し花ができると思った俺は木に登って葉を取ろうとしたが、まず登り方など習わなかった俺は木に登れない。
銀時は登れたが、あいつに頼むのだけは絶対に嫌だと強がっていた。
先生にそう話したら、まだ頑張って木に残っている葉は最後まで頑張らせてやりなさい、精一杯しがみついて、力尽きた葉を弔うために作りなさいと言われてしまい俺は落ちた葉で作った。

それが戦で騒がしくしていた頃、ふと荷物から出てきたのだ。
銀時はまるで忘れてしまっていたようで、ヨモギ餅を食いながら首をかしげていた。
ヅラは懐かしい懐かしいと言っていたが楓という名前が出てこなかったらしく八ツ手と呼び間違えていた。
辰馬は俺達を見てゲラゲラ笑ってから、自分も作りたいといい楓の落ち葉を拾ってきた。が、銀時の提案でそれらは焼き芋に使われてしまった。

葉を集めている最中、銀時は昔のことを思い出したようで「お前あのとき木に登りたかったんだろ?俺にたのみゃ良かったのに素直じゃねぇなぁ晋ちゃん」なんてからかってきたもんだから顔面を楓の木に叩きつけてやった。銀色に落ちてきた橙色が、情けなくって綺麗で笑ってしまった。

それら全てを、俺は思い出と呼ぶ。
もう二度とないと自らに言い聞かせるために、思い出と呼ぶ。

「……いい、思い出だよ」








深く色褪せていくそれらは、美しい

*****
今回は銀高より攘夷の思い出話。
秋になると感慨深い晋助様が書きたかった……←

楓の花言葉は、
“遠慮”
“自制”
“秘蔵の宝”
“とっておきの”
“非凡な才能”
“美しい変化”
“約束”
“大切な思い出”
“遠くから見ています”

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