長月 竜胆 (夜叉督)

彼は昔から建物の影に隠れて、ひとりぼっちでこっそりと泣く。
その隣にいても俺は邪魔だと怒られるだけで、いつだって慰めの言葉も何もうまく言えない。

代わりに、その辺に咲いた花を摘んで泣きじゃくる彼の隣に添えてやった。
彼は、それを喜ぶから。いつしか、それが当たり前になっていた。


先生が死んだその後の数日は、そうはいかなかった。
まず、高杉は泣く姿を見せない。
正直俺自身に全く余裕がなかったから彼を見つけてやれなかったんだろう、俺の記憶にある高杉は俺のような生気を失った虚ろな瞳に腫れぼったくくまができた目元、食欲がないのが顕著にわかる細い傷だらけの肢体。

「高杉、ちゃんと飯を食え。物資が滞らないうちに食っておかんと後で辛いぞ」

「そういうてめぇこそちっとばかり痩せただろ。蕎麦ばっか食ってねぇで飯を食え」

「おんしらそがなこと言っちゅうとわしが全部食ってしまうぜよ〜!?」

ヅラも高杉も、まぁ俺も。
正直耐えきれるはずもなかった。
辰馬だけが冷静に俺達を見て、持ち前の明るさで場をなごませようとしてくれていて。

「とりあえず食っちまえよヅラ、高杉。辰馬に食われんぞ」

「俺はやっぱり朝はいらねぇ」

「高杉!!」

頑なにそう言い高杉は部屋に戻ってしまった。

「あいつは…」

「まぁまぁ、ヅラだけでもとりあえず食っとき、の?」

「ヅラじゃない桂だ」

俺は残りの飯を口にかきこむと、花を探しに行った。
食堂にみんなが集まるこの時間なら、きっとあいつは心置きなく泣いている。
そう思った。

「高杉」

俺は外から返事を聞くまでもなく彼の部屋のふすまをひいた。

「!?」

ああ、案の定。

部屋のすみに、子供みたいに布団にくるまっている姿を見つけた。
顔を向けてはくれなかったが、鼻声で小さく「何で来た」と問われる。

その背中を、抱きしめてやりたくなった。
花を手に持ったまま布団ごと抱きしめても、高杉は震えるだけで抵抗を見せなかった。

「……その花、」

俺の手の中の青が見えたようで、驚いたような声が聞こえる。

「……ああ、いつものだな。ありがとよ」

それは嬉しそうな声にかわり、俺の手から花を受けとるとそれを眺める高杉。
俺も彼の手にわたった花を、彼の肩に頭をのせたまま眺めた。

「綺麗だろ?」

「ああ。いつも無名な雑草拾ってくるけど、てめぇも大人になったな」

「この花名前あんの?」

「あるぜ。……先生が昔教えてくれたのさ。
こいつぁな、―――」





竜胆





直後また泣き出した彼の、震える肢体が愛しくて。






*****

竜胆っていう秋に咲く青い花でした。

花言葉は、
“貴方の悲しみに寄り添う”
“悲しんでいる貴方を愛する”
等。安直な。←



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