水無月 紫陽花(白晋)

「綺麗な色だな」

攘夷時代には俺のすぐ横でそう言って奴は笑っていた。

「よく言うぜ」

俺はお前の色が好きだった。




「っ降られた……」

梅雨に入りかけの頃、傘を持たずに外に出たら大雨に降られた。

仕方なくその辺で雨宿りしようと思い、目に入った店の屋根の下に入り込む。

傘を忘れたらしくばちゃばちゃと着物の裾を濡らしながら走って行く人、柄物の傘を持って色気付いた若い娘。

様々な人が目の前を過ぎて行くのをぼんやり眺めていると、ふいに背を向けていた店の戸ががらがらと開いた。

「あっ、すいませ―――」

邪魔だろうと思い身体を避けて、
俺は店から出てきた男と視線が重なって動けなくなった。

相手も同じらしく、俺を見て驚きの色を見せる。

「銀、時」

「…晋ちゃん」

最後に会ったのはいつだったか、懐かしい香りを纏った、俺が密かに愛し続けた男だった。

「お前が、何でここに、」

「この呉服屋ちょっと用事があったんだ。高杉は―――」

銀時はそう言うと俺の身体を上から下まで眺めてくすりと笑う。
なんだかむず痒い。

「傘忘れたのかよ。珍しい」

「っうっせぇな、ほっとけや」

銀時は俺の手をとって、反対の手で傘を開いた。

「……何だよ」

「送ってやるよ。この雨、明日まで続くらしいし」

「は!?いらねぇよ」

銀時のいきなりすぎる提案に俺は慌てて手を引き抜こうとしたが、銀時の力は想像以上に強くて抜けない。

「行こ、高杉」

何故か嬉しそうにくすりと笑う銀時。
何だかその表情が愛しくて、やっぱり送ってもらうことにした。

一つの傘に大の男が二人で入っている、その光景に周りの人は訝しげな顔をする。
俺は気になるのだが、銀時は全く気にならないようだ。


「もう梅雨だな」

「……だな」

「あ、ほら高杉」

隣のそいつは何かを見つけたらしく俺に機嫌よく声をかけてきた。

「何だよ」

「紫陽花」

銀時の視線の先には、今が盛りとばかりに雨露に濡れて咲く紫陽花の姿。

「……紫陽花だな」

「なにそのリアクション」

俺の返答に不機嫌そうに唇を尖らせてから、銀時は言葉を続ける。

「紫陽花の色も、綺麗な晋ちゃんの色」

いつ聞いたのか忘れた、懐かしいフレーズ。

「俺、お前の色が好きなんだよ」

耳にこびりついて離れないその声、言葉に俺は今まで通りのフレーズで返した。

「よく言うぜ、お前の銀色の方がいい色だろうが」

銀時はそれを聞いて、悲しそうな声色で囁いた。

「……俺の色は、もう銀じゃねぇ」

はじめて聞いた言葉に驚いて俺は顔をあげる。

「……は、」

「俺はもう、くすんだ白」

もう輝かないんだよ。

正直、その意味なんて理解できなかった。
ただ、昔と違う切り返し。
昔と違う悲しそうな笑顔。


それがあまりにも悲しくて、濡れて冷えた着物の袖口よりも俺の心の芯を冷やしてった。

「さ、着いたよ」

いつの間にかに目の前には見知った風景が広がっていて、銀時は俺をその辺の軒下に押し込む。

「え、ちょっ、銀」

「じゃあね。お前の色は変わらないでいろよ」


銀時はなんとも言えない笑顔で俺にそういうと、俺を残して雨の中に消えてしまった。

思わず追いかけようとしたが、気がついたら視線の先にあの色はなかった。


無様に濡れた俺を見守ったのは、俺と同じ色をして雨に打たれる紫陽花の花。



紫陽花



*****

拍手文更新遅れちゃってすいませんでした

綺麗な色をしてるけど冷たい、そんな白晋のつもり

紫陽花の花言葉は
“移り気”
“高慢”
“辛抱強い愛情”
“元気な女性”
“あなたは美しいが冷淡だ”
“無情”
“あなたは冷たい”



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