▼皐月 藤(銀高)
恋人と道を違えた。
この目の前で眠っている男と俺とを繋げるものは、きっとこの世で最も汚らわしい、繁殖を伴わない同性同士の身体の繋がり。
それでもよかった。
お前の世界に少しでも俺がいるなら。
「おはよ」
銀時の声にハッとした。
いつもなら俺は銀時より早く起きてさっさと布団から抜け出て万事屋を去る。
「今日はお寝坊さん?」
「ここのところ仕事ばっかだったからな。邪魔した」
動揺を悟られまいと上半身を起こすと、
「…おい天パ」
寝起きのかい腕が俺の腰に巻き付いてきた。
「そう言わずに。朝飯くらい食ってけば?」
引き留めておきながら自分は起き上がり客間へふらふら歩いていく。
俺も布団の中にいてもどうしようもないので起き上がった。
「何食いたい?」
「……何でもいい」
銀時は何を思ったのかテレビをつけた。
『本日のお江戸は、午前中は晴れ渡った青空が広がりますが―――』
テレビから流れ出すアナウンサーの声をぼんやり流し聞きしていると、画面に紫がうつった。
「何あれ?葡萄?」
「ちげーよ、藤だ」
今が見頃だそうで、薄紫の藤と潔白の藤が溢れた公園の映像が続く。
「紫と白、ね」
銀時がまた甘そうな飲み物を片手にそう呟いた。
奴の言いたいことはなんとなくわかった。
『藤は隣の木に蔓をしっかり絡ませ花を咲かせることが由来して、決して離れないという花言葉がありまして――』
突然、銀時が後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
アナウンサーが話続けている言葉も遠くなったように感じる。
「お前もさ、」
耳元で小さな声で話されて震える身体が恨めしい。
「俺から離れないでみろよ」
「……はぁ?」
「お前は紫の藤。俺は白」
馬鹿げている、と思った。
奴の声色からは本気なのか冗談なのかは読み取れなかったが、そんなに率直に思いをぶつけられたのは初めてで、動揺した反面嬉しかったのも事実。
何に馬鹿げていると思ったかって、
「今更出来るわけあるか」
「あ、そう」
俺がお前のそばにいることができないことなどもうわかりきっているはずだろう。
「じゃあ俺が離れないでいてやる」
「え、」
「歓迎しろよー、喜んで受け入れろ」
銀時の意味深な笑いが、何を示しているのかなんてわからなかった。
とりあえずはっきり感じたのは、お前の腕の中が心地いいことと、胸の高鳴りだけ。
藤
お前の愛の中は心地よかった
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藤の花そのものがでで来ない緊急事態…
自分たちの間にもう愛はないと思っていたのに、側にいたいみたいなこと言われて銀時に惚れ直した高杉、みたいな話が書きたかったです
藤の花言葉は、
『恋に酔う』
『ようこそ美しき未知の方』
『佳客』
『歓迎』
『あなたを歓迎します』
『決して離れない』
等
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