【3】

(11)妬みといじめ

蝉が鬱陶しい、夏休みになった。

晋助の屋敷と銀八の家は糸電話で繋がっていて、最近よく糸電話についている鈴が鳴る。

晋助が銀八と話したくて揺らすのだ。

『銀八ぃ、今日も一緒に勉強していいか?』

『ん?いいぜ、じゃうち来い。』

そんな会話をすると、晋助は銀八の家に宿題を持って来る。

しかもこの間言ったことは本気だったようで、晋助は塾に行き始めた。

幼いながら強い決断力と行動力に銀八は正直驚いていた。

「晋助ホントに塾行き出したんだ?」

「一度言ったことを破るなんて、男のすることじゃないだろ?」

その男前っぷりにも。

晋助の両親は晋助を頭のいい学校に入れたがっていたので大喜びだったそうだが。


「…晋助?」

部屋に入ってきて突然銀八の腰に晋助が抱きついてきた。

春は『子供っぽい』と嫌がっていたのに、一度言ったことが覆っている。

「…疲れた…」

晋助は午前中は塾の夏期講習がある。
それのことを言っているんだろうと思い、銀八は

「晋助さ、勉強嫌いじゃねェの?」

晋助に訊ねる。

「嫌い、じゃない」

「そっか」

「でも」

「でも?」

少しためらってから、頭を銀八に押しつけて呟く。

「塾の奴等がヤダ」

暑いのにぎゅうぎゅうとしがみついてくる晋助。

ここ2週間ばかり様子がおかしかった。

「…何かされたの?」

晋助はびくりと体を震わせてから、首がとれるのではないかという勢いで首を横にふる。

((何かされたのか))

銀八は一旦晋助を離して、晋助と同じ目線の高さになるようにしゃがんでから晋助を抱きしめる。

「何かあったら何でも言っていいんだぞ?その為の俺なんだから」

「なんにも、ないっ」

「相談されるのは、俺にとっても練習なんだ。教師になってから生徒に相談されるのの練習」

そう言われると晋助は唇を噛んで、銀八の首に腕を回す。

ぽつり、と話始めた。

「いじめられた」

「えっ」

「まだ塾入ったばっかなのに、先生に気に入られてるとか言われたり、勉強してないくせに頭良いからムカつくとか言われた。」

ただの子供の妬みだ。

「…晋助は悪くない」

「……ふぇ…?」

「晋助が頭も良くてかっこよくて、運動もできて先生の言うこときちんと聞くから羨ましいんだよ。」

「そんなこと……」

「皆がもうちょっと成長すればそんなこと言わなくなるから、しばらくは我慢してやれ。晋助は皆より大人だから出来るだろ?」

「…わかった。」

小さな背中をそっと撫でてやる。
すると晋助は甘えるように頭をすり寄せ、背中をふるわせた。

「…晋助?」

「…ぎん、ぱちぃ…」

ふるえた声と自分の肩が濡れるのを感じた銀八は、晋助が泣いていることに気づく。

「大丈夫だよ、晋助…」

((塾で大人でいる分、ここで子供で居ていいから。))


夏期講習が終わる頃には、いじめもなくなったそうだ。


〜〜〜〜〜


(12)女子高生

銀八だってもう高校生2年生なのだから、女と付き合うこともある。

まぁ晋助一筋の彼はその女子に大した愛情はなく、可愛い娘だし話もそこそこ面白いしとそんな程度だったが。

一方4年生にあがった晋助の方も学校や塾の友達と一緒にいる時間が少しずつ増え、たまに一週間に2日ほどしか顔を合わせない日もあった。

それでもやっぱり晋助も銀八が大切なわけで。

塾に行くある日、晋助は見てしまった。

駅前で銀八が、彼女と一緒に楽しそうに歩いている姿を。

指を絡めて手を繋いで、一般人から見れば円滑な普通のカップルである。

「…銀八…」

晋助だって、自分が恋愛の眼中にないことをわかっていた。
(実際銀八は晋助一筋なのだが)

でも直面してしまうとどこか悲しく、逃げようとした。

が。

「…晋助…?」

晋助に気づいた銀八が、声をかけてしまった。

その場で立ち去れず、晋助は渋々そちらを向く。

「銀八、その子誰?親戚の子?」

「いや、俺んちの隣に住んでる子。」

「へぇー可愛い!こんにちはぁ」

彼女の方はそんなやり取りをしてから晋助に手をふる。

晋助は動揺しつつも

「こんにちは」

と呟く。

可愛らしくおしゃれな女子高生と自分の差を感じてへこむ晋助をよそに、彼女は積極的に晋助に話しかけてくる。

「はじめましてっ、銀八おにーちゃんの彼女ですっ!」

「どうも…」

「しんすけくん、だよね?うわぁマジ可愛いっ、女の子みたい!」

「ちょっ、晋助おびえてんじゃんその辺にしといて」

棒つきキャンディをくわえた銀八がストップをかけるが、可愛い子供に弱い彼女は止まらない。

「ねぇねぇ“お姉ちゃん”って呼んでみて?あたし弟欲しいんだよねー」

「だからいい加減にしろって」

「ちょっとだけっ!ね?」

「お、ねーちゃん…?」

晋助はよくわからないままそう呟く。

「かっわいぃー!やだぁホント弟にしたい!」

「もういいだろ、行くぞ」

銀八が繋いだ手をぐい、と引っ張る。

「うん…またね、しんすけくん!!」

「晋助、塾頑張れよ」

銀八は彼女を引っ張りながら晋助にそう残し、去っていった。

「つかおめー“またね”ってどこで会う気だよ」

「えーいつか銀八の家行ったときとか?あっ、あと銀八の家にお嫁に行ったときに!大きくなったら美青年だろうなぁー」

「バカヤロー」

そんな痴話喧嘩をしながら去っていく二人を見て、晋助は無性に悲しかった。


〜〜〜〜〜


(13)パンフレット

銀八が彼女と一緒にいるのを見てから丸一週間、晋助は銀八と顔をあわせなかった。

小学4年生の晋助は、自分の我儘は銀八を困らせるとわかっていた。
もっと自分を見てほしい、
彼女なんて作らないでほしい、
なんて事は言ってはいけないと。

だからせめて嫉妬と悲しさがおさまるまで極力銀八と会わないようにしようと思っていた。

「……銀八…」

晋助の家に、銀八が来るまでは。

「これ、さ。」

銀八が差し出してきたのは銀魂高校の文化祭のパンフレット。

「一週間後にやるんだ。去年は晋助の運動会とかの都合で行けなかったけど行きたがってたろ?今年は特に用事ねェだろーし、な?」

確かに文化祭の2日間にかぶる用事もない。

「俺、今年はベタだけど模擬店で喫茶店やんの。ほら、晋助俺が作るケーキとか焼き菓子好きじゃん?俺の彼女もおめーのこと気に入っちゃってさァ…」

断る理由もない。

でも、でも。

「…おれは、行けない」

「え」

きっとあの女子と仲良く模擬店で仕事をするのだろう。

晋助はそれを見るのが何か、なんとなく嫌だった。

「その日はおじいさまのところに連れていってもらう日だから」

「…そっか」

「うん」

「もう一日は?何かある?」

「……」

言い訳がすぐに思いつかなかった。

「決定だなっ」

そして、晋助は文化祭に行くことになってしまった。

鮮やかなパンフレットを握りしめた晋助は年に合わない深いため息を一つついた。


〜〜〜〜〜


(14)タピオカ

銀八に行き方を教えてもらって、珍しく一人で遠出した晋助。

電車のつり革に掴まってみようと試みたが身長が足りなかった。

「ここが銀八の学校…」

人の流れにのって行き着いた先は銀魂高校。

いつもなら灰色の校舎は地味で正直ぱっとしないが、華やかな装飾に彩られてなかなかいい仕上がりになっている。

銀八の模擬店は二階の教室で、階段を上がって一番出前だと言っていた。

言われた通りに歩いてみると、可愛らしい装飾を施された教室のプレートと、教室。

「晋助っ!」

晋助が店に入ると早々に銀八が出てくる。

「…銀八……」

店内でお揃いのTシャツを何人もが着ている中、銀八は普通のシャツ一枚で腕捲りしていた。

「今交代してもらった。一緒に回ろうぜ?…っと、その前に」

優しく笑う銀八は、晋助にジュースを渡してくる。

ジュースのプラスチック製のコップの上には同じ質の蓋がついていて、そこからはいやに太いストローがつきでている。

「あ、りがと…」

それを受け取り太いストローを口にすると、

「!?ぎんぱっ、何か入ってっ」

「っくくく…晋助、安心して」

驚く晋助を見て楽しそうに銀八は笑った。

「大丈夫、タピオカって食いモンだから」

「たぴおか…?」

「きっと知らねぇと思ってた。ちょっと固めのゼリーの粒みたいな感じ。味はしないから飲み物に入れると旨いよ」

そう言われて恐る恐るタピオカを吸い上げる晋助。

口をもごもご動かす晋助を見て思わず銀八は頬がゆるくなる。

「どう?」

「う、まい。」

「よかった。」

そんな二人のほのぼのとした風景を見た銀八の同級生や他の客達も癒された。

「銀八、100円。」

「え?」

「おまん勝手に店のモン飲ませたじゃろ。特別にまけて100じゃ。」

「だってこれ俺が作っ」

「100円。」

「………はい。」

「まいどありっ!」

その後商人の血をひく坂本に代金を請求された銀八は苦笑いした。



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