【2】

(6)遊んだり学んだり

晋助が小学2年生にあがると、
銀八は中学3年生にあがる。
つまり銀八は受験生。

銀八は晋助にちゃんと説明をした。
高校に上がるにはたくさん勉強しないといけないから、会える時間が減ってしまうと。
晋助も前よりは物わかりがよくなって、わかったと言った。

寂しさは歯を噛み締めて隠して。

銀八が行きたがっているのは、自宅から電車ですぐの銀魂高校。

偏差値も大学実績も決して高いとは言えないが、とにかく自由なことで有名だ。

あまり勉強を好まない銀八にはちょうどいい偏差値。

よく銀八は晋助に提案する。

「一緒に勉強しねーか?宿題もってうちに来いよ」

晋助はそこで九九を覚えたり、教科書の予習をする。

銀八はそれよりも何倍も難しい勉強をしていて、
でも晋助を見て頑張ろうと自分を励ましていた。

晋助の方が銀八よりしっかりしていて、勉強に寝る銀八は何度晋助に揺り起こされたことか。

晋助の方は、だんだん学校の友達と遊ぶ回数も増えた。

「銀八、今日はおれ公園行ってくる!」

「ヅラ達と遊ぶの?」

「そう!」

「気をつけろよ。」

晋助がヅラと呼ぶので銀八の中でもヅラで定着してしまった。


いつも笑顔でいってらっしゃいと言ってやるのだが、銀八はいつも晋助が遊びに行くのを複雑な気持ちで見ていた。
帰ってくるとよく泣いているから。

元々お坊っちゃまの晋助と他の子は上手く噛み合えずに喧嘩になることが多いのだ。

「ふえぇぇぇえ、ぎ、んぱちぃい」

晋助の母は晋助を見ないで放置しているところがあるので、晋助は銀八にいつも泣きつく。

「はいはい、大丈夫だから。可哀想にな」

まるで女の子のように泣く晋助を胸に抱いてあやす、その度に銀八は思う。

((俺と一緒にいればいいのに。そうしたら俺は絶対晋助を泣かせたりしないのに。遊びに行くから悪ィんだ、いや晋助を苛めた奴等が悪ィけど。))

銀八の歪んだ感情が生まれたのは、まさにこの頃。


〜〜〜〜〜


(7)銀八、高校受験

「じゃあ銀八、がんばってな!」

「おぅ、ありがと晋助。」

朝7時前。
今日は銀八の一年間の努力を発揮する日、銀魂高校の受験日だ。

それを聞いた晋助は、いつもならこんなに早い時間に起きないが朝早くに銀八の家に来て彼を見送りした。

「頑張らねーと、な…」

受験会場には中学の友達、くるくるした茶髪が特徴の坂本がいた。

「おー銀八来たかや!」

「ったりめーだ。」

受験番号が離れているから必然的に教室も離れる。

「頑張るぜよ!」

「おう。俺の可愛い幼なじみにも応援されちまったしな。」

「いつも話ちょる晋助っちゅー子か!」

「そ。じゃあ後でな」




*


「銀八、テストどうだった?」

「た、ぶん……平気…」

夜の七時頃、遊びにきた晋助はの質問に目をそらしながら答える銀八。

それを見て晋助は不思議そうにしていた。

結果発表まであと18時間。


〜〜〜〜〜


(8)結果発表

「銀八、ちこくか?」

「晋助!おはよ。」

銀八が家から出ると、ちょうどランドセルを背負った晋助とかち合った。

普段は晋助よりも少し早く家を出る銀八が、自分と同じ時間に家を出るのを見てそう思ったんだろう。

「違ェよ、今日は結果発表。」

「けっか…はっぴょー?」

「高校に入れるか入れないかが知らされるんだよ」

「ふぅん…銀八はいれますよーに…がんばれ!行ってきます!」

「いってらっしゃい」

白い息を吐きながら笑う晋助に銀八は手をふる。

何を頑張るんだ、とかそんな無粋なことを言ってはならない。

相変わらず可愛いなと思いながら銀八は銀魂高校に向かう。


彼の受験票の番号は【427】。
つまり【死にな】だ。

つくづく縁起が悪い番号だと思う銀八。

途中で合流した坂本の番号は【777】だというのに。

大きく張り出されたボードの前には泣く生徒や塾や学校の教師でごった返している。

「「…あった…」」

銀八と坂本の呟きがかぶり、

「「ぅやったぁぁああ!!!!」」

二人は大声をあげて喜んだ。


そんな彼等をよそに、その頃晋助はノートに落書きをしていた。

彼の国語のノートの隅っこに【銀八が高校に入れますように】と汚い幼い字で書いてあったことは、ノートを集めた松陽先生しか知らない。


〜〜〜〜〜


(9)子供っぽい

晋助は小学校3年生になり、
今日は銀八の高校の入学式だ。
今日は土曜日。
銀八の家に泊まっていた晋助は、銀八が銀魂高校の制服を着た姿を誰よりも最初に見た。

「うおぉぉお!!かっけぇ!!」

今までは学校に制服は一応あったものの基本ジャージで過ごしていた銀八。

が、今日は学ランを着ていた。
いやこれから三年間はずっとこれなのだ。

「そ、そうか?」

「うん!学生っぽい!」

「…一応ずっと学生なんだけどな」

晋助の目がキラキラ輝いているのが可愛くて可愛くて、銀八は思わず晋助を抱きしめる。

しかしすぐに晋助は離れてしまった。

「……え…」

予想だにしない出来事に、ぽかんと口を開ける銀八。

晋助はふるふると首を横にふり、

「子供っぽい、からヤダ」

「!!!」

銀八はショックを受ける。
まさか晋助に抱擁を拒まれると思わなかった。

確かにこの年頃になってくると子供は無駄に大人っぽくなりたいと背伸びをするものだ。

晋助の場合この年ですでに銀八に微かな好意を寄せていたので、できるだけ彼と同じ立場、同じ高さにいたいという思いと照れ隠しが混ざっていたのだが。

自分にもそういう時期があったなぁとふと思い銀八は行き場に困った手を晋助の頭に乗せた。

それも晋助に拒まれる。

「それも子供っぽい!」

いじけたように唇を尖らす晋助を見て、銀八は多少傷つきながらも

((可愛いからまぁいっか))

と自分を納得させた。

もはや親バカのような域に達していると本人は気づいていないのだろうか。


〜〜〜〜〜


(10)将来の夢

「晋助は将来何になりたい?」

とある休日、銀八は晋助の屋敷に遊びに行っていた。

二人でテレビゲームをして少し疲れて休んでいる最中、銀八が晋助にそう訊ねたのだ。

「え…」

子供のくせにあまりそんなことを考えなかった晋助。

「とくにないかな。銀八は?」

「俺な」

銀八は少し言葉をためてから、晋助の大きな緑色の目を見て言った。

「教師になりたいんだ」

晋助同様、松陽先生が大好きだった銀八。
子供の相手は好きだし、部活でも後輩の指導は得意な方だった。

「そっか」

晋助は小さく頷き、

「じゃあ俺は銀八の生徒になる!」

堂々と宣言した。

「え」

「銀八はどこの学校の先生になるんだ?」

「い、いや…まだ決まってないけど…」

「じゃ銀八がどんな難しい学校の先生になってもいいように俺いっぱい勉強するから!そしたら」

目を輝かせる晋助を、銀八は呆然と見つめる。

「ずっと銀八と一緒にいられる」

はにかむような晋助。


銀八はもうその時、自分の感情に気づいていた。

年の差も性別も越えて、

俺、
こいつのこと好きなんだ。

その相手がそんな可愛いことを言おうものなら、銀八だっておかしくなる。

銀八は晋助を思いきり抱きしめた。

「……っうわっ!?」

その勢いで晋助は床に押し倒される。

「ぎ、ぱち……?」

「晋助っ…、」

銀八は半ば無意識のうちに、

晋助の唇に、自分の唇を重ねた。


「っっ……!?」




唇を離した後、銀八はハッとした。


((しまったっ……!!!))

七歳も年下の大切な幼馴染みに何て事をしたんだよ、と。


「……っごめ、晋助…」


一方晋助は、さほど嫌ではなかった。

前から銀八に友達とは違った好意を寄せていたのだから、嬉しいくらいだ。

しかも銀八よりずっと幼い自分にキスをするのは、少しは大人として見てくれた、なんて思うほどである。

「し、晋助…っごめん!!」

銀八の方はてっきり嫌われた、怒られると思っているので、

「ホントにごめんっ…ごめんなさい、許してください嫌わないで下さい…」

晋助を抱き起こして土下座でもしそうな勢いで謝る。

しばらくぽかんとしていた晋助だが、

「………っぷっ」

思わず笑いだした。

「……っへ…?」

「だって銀八、高校生だってのに小学生相手にそんなにっ……くくっ…」

「いやっ、だって晋助俺おめェに……」

「別に怒ってないよ、へんなのっ」

晋助の笑い顔をみて、銀八は安心する。

「よかった……」

自分はそれほどに信頼されているんだ、と銀八はなかば無理矢理納得した。

普通なら信頼する相手でも許さないところだ、というのは通常の銀八にはわかることだが、気が動転していたのだろう。

この日から、二人の関係が今までとどこか変わった。

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