(11)流石攘夷時代の英雄、恐ろしいです

天人達が、どんどんと倒れていく。

桂と銀髪の男が、天人達をなぎはらっている。

周りにいる敵を片っ端から叩き斬り、
後ろから攻撃されれば刀をぶんまわして後ろの敵をしとめ、
空中から攻撃されれば器用に避けて敵が降りてきたところをしとめ、
両者のうちどちらかが危なければ助け合って背中を護っている。

相当戦い慣れしているようで、今までいた桂の手下達とは到底格が違う。

高杉さんもこれだけの力を持っているということだ。

天人達の中には、ビビって固まっている者もいる。

赤や緑の返り血を身に浴びながら暴れまわる二人は、何か大声で会話していた。

が、強く吹く風の音や大砲の音、刀の擦れ合う音などで聞き取れない。

ある程度敵を斬って、少し落ち着いたときに二人は再び背中合わせになった。

二人とも何か言いながら、手に握った刀をこちらに向けてきた。

「高杉ィィィィ!!!!」

高杉さんにむけて、銀髪の男は叫んだ。

なんとか聞こえるか、聞こえないか。

「次会ったときは仲間もクソも関係ねェ、」

そこからは桂と二人で、

「「全力でてめェをぶった斬る!!!!!!!!」」

挑発をかけていった。

悔しいけど、桂も銀髪の男も目を奪われるほどに格好よかった。

一方高杉さんは、風に煽られながら不敵な笑みを浮かべている。

「せいぜい街でばったり会わねェよう、気ィつけるこったぁ!!」

一言銀髪の男がそう言い残してから、二人はバッと船から飛び降りた。

天人達も驚いて騒ぎだした。

この船は空中に浮いているんだから落ちたら海へ落ちるに決まっている。

左足の痛みをこらえて柵から乗り出して下を見ると、
先ほどの謎の生物エリザベスの顔の柄のパラシュートがふわふわと浮いていた。

桂か銀髪の男が用意していたんだろう。

天人達にライフルやら銃やらで攻撃されるが、ゆらゆらとかわして降りていく。

桂の手下の船も、いつの間にかに遠くへ離れていた。

「チッ、こんだけ散々やらかしたくせに逃げられたっス…」

また子さんが、黄色い頭をかきむしって歩いてきた。
幸い、彼女は大した怪我をしていないようだ。

俺はハッとした。

「また子さん、似蔵さんは!?どうなったんですか!?」

足が動かず、柵にもたれかかったまま俺は訊ねた。

(肩を貸してくれていた男の人は、船艦の中に入っていった。)

そう、幹部四人はいるのに似蔵さんがいない。

似蔵さんと戦っていた銀髪の男はぼろぼろになりながらも命はとりとめていた。
ということは…

「殺されたっスよ、白夜叉に。」

顔色一つ変えず、また子さんは言った。

人が一人死んだっていうのに恐ろしい。

…いや、俺もこの短時間で何人も人を殺したんだ、同類か。

ああ、これが鬼兵隊なのか。


「白夜叉って…あの銀髪の男ですか!?」

俺の問いに、こくりとまた子さんは首を縦にふった。

どうやら俺の推測は正しかったようだ。

「はぁぁ、ったく似蔵があの刀持ったまま彷徨いたり、桂を斬ったりしなければ上手くいっ……」

風で煽られる金髪を邪魔そうに払っていたまた子さんが、ハッと愚痴を止めた。

そしてじっと俺を見つめる。

しばらく俺を見つめている。

「…な、何ですか?」

俺がそう言うと、彼女は

「いや、何でもないっス……。」

ふい、と目をそらした。

…………?

春雨も鬼兵隊も、皆こちらの船に乗ってきた頃。

俺達の乗っていた鬼兵隊の船が壊れて下へ落ちていく。

あのたくさんの紅桜は、海の藻屑となるわけか…。

あれ全部でいくらくらいするんだろう…。

「手当ての用意ができたぞー!」

そう天人の声がして、俺は船艦に入らされた。

中は壁から何まで機械っぽく、鉄が鈍く光っている。

足の感覚はもうおかしくなってしまい痛みは感じにくかったが、想像以上に出血多量。

春雨の天人に、包帯やらギプスやらを巻いてもらった。

怖い。

故郷を燃やしてくれた天人達に手当てを受けるなんて皮肉な話だが。

高杉さんは幕府を恨んでいるだろうけど、それ以前に天人達を憎んでいるんじゃないんだろうか。

元々攘夷志士とは、天人達が地球に侵入してくるのを拒む人間の集団。

何故、春雨と───。







巨大船艦の中には、いくつも船が積み込まれていて、そのうち一つ大きな船が鬼兵隊用にとなった。

貸してくれたのか、売ってくれたのかはよく知らないけど本格的に手を組むことになったらしい。

その積まれた船で、再び一人一部屋ずつ渡され、皆自室待機又は自室療養する事になった。

そしてこの船は、春雨の船艦ごと宇宙へ出航する事になる。

宇宙か。

俺の兄貴が行きたがっていたな。

よく晴れた夜に“星を見よう”と連れ出されたものだ。

自室療養で退屈なので、少し語らせてもらおう。

俺の家の隣は、名の知れた医者だったのでたくさんの患者が入院していた。

近くで戦が起きたときには一気に兵士が連れ込まれて忙しそうにしていた。

俺が6歳のとき、11も離れた兄貴と同い年くらいの兵士が入院してきたんだ。

兄貴は隣に用事があったときにその人と知り合って、打ち解けて仲良くなった。

そのお兄さんは剣が得意で、剣術を習っていた俺にもよくかまってくれた。

傷がろくに治っていないのに運動するな、とお医者さんによく怒られていたが。

本名は知らないというか覚えていないけれど、俺は“たつ兄”とその人のことを呼んでいたな。

たつ兄は宇宙に興味があって、兄貴と話があっていた。

よく、二人で星を眺めるのに俺は連れていってもらった。

早々に退院してしまったが、あの人には本当にお世話になった。

……元気かな、たつ兄…

船の自室の布団でそんなことを思い出していたら。

和洋折衷な部屋のドアが軽くノックされた。

「はい?」

誰だろう、と思って返事をすると。

「よォ、邪魔するぜ」

俺は布団の中で硬直した。
紫色の着物。

煙管を燻らしながら、高杉さんがドアを開けてきた。

わざわざ、鬼兵隊総督がこんなしたっぱの部屋に来るなんて一体………!?





ーーーーーー





時は遡り、数十分前。
高杉晋助の和室。

幹部が四人揃っている。

『あの、私思ったんスよ』

紅い弾丸が口を開く。

『今回の件…、桂達に紅桜の存在がバレたのに、こっちサイドの人間も一枚かんでるんじゃないか、って…』

『というと?』

壁によりかかっている、人斬りが聞き返した。

『こちら鬼兵隊に桂の密偵が潜り込んだのでは、ということでしょう?』

謀略家も同じ意見を持っていたのか、あっさりと言う。

『そうっス、その密偵って…』

その場にいる人間の視線が集まる。

女は、少し固くなったがはっきりと言葉を続けた。

『柚希…、雨霧柚希じゃないっスか?』

残りの三人が、微かに反応の色を見せる。

『確かに彼が来てから丁度一週間でしたね、タイミングが良すぎるとは思いますが…』

謀略家が、顎に手をあて小さく頷く。

『しかも他の隊士の話によると、ガキにしては強すぎたらしいっス、普通より強めの大人二人分くらいとか…。桂の手下で、戦い慣れしてるって考えると納得できる話っスよね?』

意見を言う女に、

『そうだとしたら、何故今回、桂達がこちらに乗り込んできたときに連れ帰らなかったんでしょうね?それに、桂の部下を斬った上に、桂の部下に怪我を負わされたんでしょう?カムフラージュですかね…?』

謀略家も意を述べる。

『怪我を負わされたのが、命に別状のある胸やら腹ならわかるんスけど、あいつが怪我してるのが足だったんスよ!』

女が、自分の太ももを叩きながら言った。

一方人斬りは、

『拙者は、あやつの真っ直ぐな音を聞いたでござる、そうは考えにくいが……晋助。』

自分の意を述べ、無言を貫く大将に話をふった。

『そうだなァ…』

鬼兵隊総督は、座っていた窓枠から立ち上がり、立て掛けてあった刀を青い帯にさす。

『行ってくる』

襖の方に歩きながら、言った。

『少しは信じて紅桜の話をさせたんだがな。あいつがもしヅラの回し者なら、俺があいつの頭と胴体おさらばさせてやるよ』

にやりと黒い笑みをうかべて、部屋を出た。

隊の裏切り者は、いつもこの男が首を落とすのだ。





ーーーーーー





「どっどどうしたんですか、俺なんかに何かご用が……!?」

動揺を隠せず、慌てて起き上がろうとする俺に、

「そのままでいいぜ。楽にしてろ」

そう高杉さんは言ってくれた。

「はぁ……」

足が痛いのでお言葉に甘える事にした。
というか逆らうのが怖いから。

高杉さんは、俺の横になった布団の隣にすっと腰を下ろした。

そして、枕元においてある俺の刀を手にとり、

「ほぉ…中々いいもん使ってんじゃねーか…」

鞘から半分ほど抜いて刃を眺め、小さく笑いながら声をもらした。

すぐ上で過激攘夷志士に刀を抜かれると、とんでもなく怖いです高杉さん…!!!

枕元から少し遠ざけたところに刀をおいて、高杉さんは話し始めた。

「今回の騒動だがな、ヅラに紅桜の存在が露見したのも原因の一つなんだが…」

静かな部屋に、高杉さんの声が響く。

ヅラとは、少女が探していた相手だ。

やっぱりヅラとは、桂小太郎…。

しかし高杉さんが何故突然俺にそんなことを言いに来たんだろう。

「そこでだな?」

そう言い、ふらりと高杉さんは立ち上がる。

煙管を懐にしまいこみながら。

だからそれ腹火傷しないんですか!?

今は、桂に腹を斬られたので包帯が巻いてあるが。

しなやかな右手で、彼の帯にささった刀を抜いた。




高杉さんが薄笑いをうかべながら、


それを俺の喉元につきつける。





「…………え?」





声がもれた。


…………は?




え、ちょっ……何…!?




「これからいくつか質問するから、真面目に答えろよ?嘘ついたら斬るぜ」

こんな物騒な体勢で質問!?

声が出なくて、
何も言えない。

「っあ…………」

怖い。

心なしか高杉さんが楽しそうに見える。

俺はまるで蛇に睨まれた蛙…だっけ?
あれ、蛙に睨まれた蛇?

頭が回らない。

「嘘ついたらわかるからな、俺ァこうして何人も裏切り者斬ってきたんだ。」

「は……はい……」

声を絞り出して返事をした。

どっくん、どくんって
緊張で、鼓動が早くなって音が耳の奥でなる。

痛みが更に増したような感じがして、色んな意味で冷や汗が出てきた。



「てめェは、ヅラんとこにいるのか?」

「……いません…」

「ヅラに、紅桜の情報を流した?」

「…流してません…」

「銀時んとこの者か?」

「…違います…」

「鬼兵隊以外に、何かに属しているか?」

「……属してません…」

俺は、機械のように答えていく。

「…そうか…じゃあ、最後に聞く…」

高杉さんは、極めつけに俺に聞いた。

「俺達に、隠し事はあるか?」


「………!」


ゾクリと、背筋が氷った。


[ 56/61 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]




[top]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -